カルチャー
筆跡鑑定人に直撃!
「この遺言書は本当におじいちゃんが書いたものか?」知られざる筆跡鑑定の世界
2017/05/28 16:00
――しかし、Bにはつくりの「子」の部分に大きなハネがあり、AとCにはハネがないのが気になります。
牧野 ここで「個人内変動」が登場します。いくらその人特有の筆跡があっても人は機械ではありませんから、必ず変動の幅があります。これを「個人内変動」と言います。これらを総合的に考えると、この場合はAを書いた人物がCを模写した可能性が大きいわけです。筆跡鑑定はこの「個人内変動」をどう捉えるにかかってきます。マニュアルは存在しない職人の腕の見せどころです。
個人内変動は、人によって変化の幅が異なりますので、できるだけ同じ文字を取りだしその人の幅を確かめます。また、縦書きか横書きか、書くスペースが広いか狭いか、筆記具は何か、そして、その時の書き手の心情によっても個人内変動は変わってきます。
――遺言書を書く時点で高齢だったり、体調の悪い人が多くなりますよね。それにより字にも変化が出るはずですが、筆跡鑑定ではそれをどう加味していくのでしょうか。
牧野 そうですね。もはや文字を書けるような状態ではないにもかかわらず、家族が半ば強制的に本人にペンを持たせる事も珍しくありません。
年齢を重ねるにつれ文字も省エネになり、小さく縦長傾向になることが多いですが書き癖は変わりません。ですから病気や高齢であっても書き癖が安定的に出ている状態であれば、「力が入らないため筆圧が弱くなる」「筋肉が硬くなってくるので滑らかに筆が進まず文字の線がぎこちなくなる」などの加齢による要素を加味することで鑑定は行うことができます。
(石徹白未亜)
(後編へつづく)
最終更新:2017/05/28 16:00