サイゾーウーマンカルチャーブックレビュー「料理」に呪いをかけずに楽しむ! カルチャー [サイジョの本棚] 「ちゃんとした料理を作らなきゃ」「ていねいに暮らさなきゃ」、“料理”に自分で呪いをかけてない? 2017/04/30 16:00 ブックレビューサイジョの本棚 「ていねいに」暮さなくていい ■『男と女の台所』(大平一枝、平凡社) 『男と女の台所』は、『ダメ女~』の段階を越えて、食と自分との“心地よい場所”を見つけ出している人々の半生と、19の台所を静かに写し出した1冊だ。 有名無名問わず、料理や食、生き方に哲学を持つ人々のインタビューと共にその「台所」を写真に収めた本書。撮影された台所は、完璧に整えられたモデルルームにあるキッチンとは違う、それぞれの魅力であふれている。54年間連れ添う団地暮らしの夫婦の台所、人気ブロガー女性の台所、40代女性と20代男性のカップルの台所、3人の子どもを育てるシングルマザーの台所、路上生活する夫婦の台所、同性カップルの台所――取材された人も、台所の広さも新しさもまちまちだが、それぞれ自分にしか送れない確かな生活の佇まいをバリエーション豊かにのぞかせる。 持ち主の顔が映った写真はなく、台所に立つ後ろ姿がほとんど。しかし、料理経験や台所をきっかけに語られる、恋愛や夫婦関係についてのインタビューが、その人の飾らない人となりを描き出す。 離婚後、何を食べてもおいしいと思えず、料理も作らなくなった女性が回復するまでを語ったり、義母の手を借り、働きながら育児をこなしたシングルマザーが「上手に迷惑をかけて、助け合う方がお互い楽になれる」と語ったり――。料理や台所の話をしているはずなのに、不思議とそこには、倦んでしまいがちな中年期・老年期をしなやかに生きるヒントが詰まっている。 特に印象深く描かれているエピソードは、共働き家庭で2児を育てる40代の女性を取材した一篇「ていねいになんて暮らせない」。仕事に家事に育児に多忙の中、「ていねいにできない自分をせめずにはいられな」かった女性が、夫の作る簡単な朝食やおにぎりをきっかけに「人それぞれ持って生まれた性質があって、自分に合った方法でいい」と気づき、「ていねいに暮らさない自分」に罪悪感を持たないと割り切る決心を描く。バブル崩壊後、特定の世代に根強くかけられている、“ていねいな暮らし”という呪いから解いてくれる短編小説のような読後感を残す。 台所から生まれるものは、おいしい料理や笑顔だけではない。思うようにいかない苦しい日々も、泣きながら作ったおいしくない料理もすべて呑み込んで、地道に生活を続けるための場所だ。新生活に戸惑い悩む人たちにとっても、台所が苦手な場所でなく、ゆっくりと大切な居場所になることを祈りたい。 (保田夏子) 前のページ12 最終更新:2017/04/30 16:00 関連記事 男もファッションも大好きなフェミニストが、「男らしさ」に苦しむ男性も救う?理性的に生きてきた中年男女が、恋愛の業に翻弄される姿を描いた『マチネの終わりに』セレブ専業主婦&女子アナを苦しめる、“勝ち組”ゆえの特殊ルールの正体向田邦子×水羊羹、色川武大×氷いちご。作家の偏愛がおかしくも小気味よい『ひんやりと、甘味 』「東京/地方」「夢/仕事」は、対立ではなく地続きな問題と教えてくれる4冊 次の記事 「無印良品」洗顔ジェルのヤバイ点 >