カルチャー
「東京ろう映画祭」ディレクター・諸星春那さんインタビュー

“社会的弱者のお涙頂戴”は狙いではない——「東京ろう映画祭」初開催の意図とは?

2017/04/06 15:00

■“お涙頂戴系”の映画ではなく、テーマ「視覚の知性」に合った作品を選定

――作品の選定は、どのようにされたのでしょう?

諸星 牧原と私が見たい作品を選んでいきました。ひとつだけ言えるのは、“お涙頂戴系”の映画はあまり好きではないんです。ろう者の映画にはそういった作品もあるのですが、私たちは涙の感動作ではなく、自分たちが見たい映画というところにポイントを置きました。また今回は「視覚の知性」がテーマなので、そのテーマに合った作品ですね。だからろう者が出演していたり、監督していたりしても、今回は選ばれない作品も出てきました。

――園子温監督の『愛のむきだし』が特別上映企画に入っていますね。これは4時間弱の長尺の作品で、園監督のアフタートークも予定されています。この映画を特別上映に選んだ理由は?

諸星 牧原が園監督の映画が好きで、『愛のむきだし』が見たいのに、字幕版がなくて見られなかったんですよ。『ヒミズ』には字幕があったので、2人とも見られたんですけど。ろう者にとって、日本映画は字幕がなくて見られない作品が多いんです。インディーズ映画は特にそうですが……。だから今回、まずは園監督のこの映画に字幕を付けて、ろう者の皆さんにも見ていただきたいと思って企画しました。園監督のアフタートークもあるので、牧原は緊張でドキドキしていると思います(笑)。

――初めての映画祭を開催するにあたって、いちばん大変だったことは何でしょう?

諸星 今もまだ大変なんですけど(苦笑)。私も牧原も、これまでの映画祭のスタッフとしてしっかり関わった経験がなく、ボランティアで少し手伝ったことがある程度なのです。2人でできる範囲で、さまざまな方にあらゆる交渉をして、字幕制作、協賛、宣伝、チケットはどうするのかなどを話し合い、仕事を分担して進めてきました。ひとつ終わると「じゃあ、次はアレどうする?」という感じで、片づけていく感じです。うまく段取りしながら、手探りでここまで来ました。

 私は主に関連企画を手掛けています。この映画祭関連のアートの企画で、ろうの美術作家・神津裕幸の個展をArt Lab AKIBAで開催したり(3月で終了)、映画『新・音のない世界で』の日本初上映を記念して、俳優レベント・ベシュカルデシュの手話と身体のワークショップを企画しました。そして、写真家の井上孝治さん(故人)のドキュメンタリー映画『井上孝治、表象を越えた写真家』(ブリジット・ルメーヌ監督)を4月7日と8日に上映するにあたり、本映画祭の関連企画として、アメリカ橋ギャラリーで井上孝治写真展を4月5日から開催しますので、よろしくお願いいたします。

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