[サイジョの本棚]

男もファッションも大好きなフェミニストが、「男らしさ」に苦しむ男性も救う?

2017/04/01 19:00

読者を惑わす迷解説!

■『文庫解説ワンダーランド』

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 文庫本を買うと、たいてい巻末には数ページの「解説」がついてくる。批評家や研究者、著者と親交のある作家や著名人が作品や作家について紹介してくれる日本特有の文化「解説」を評論した本が『文庫解説ワンダーランド』(斎藤美奈子、岩波書店)だ。

 夏目漱石、太宰治ら、複数の出版社から出されている人気作品の複数の解説を読み比べたり、『赤頭巾ちゃん気をつけて』(庄司薫)、『なんとなく、クリスタル』(田中康夫)など社会現象にもなったベストセラーの解説を読み込み、数十年を経て、文学史上の重要性が認識され、再評価されていることを指摘したり。『文庫解説ワンダーランド』そのものが、時代を長期的に俯瞰した文学批評として成立している。

 そんな、作品の理解を深める優れた名解説の紹介が知見を広げてくれる一方で、著者の腕の良さが際立つ点は、読者を迷子にする迷解説、謎解説を、毒とユーモアたっぷりに引き揚げているところだ。


 『失楽園』など、男性的な視点で描かれる性愛小説を生み出した渡辺淳一の作品解説には、「一見褒めてるようでよく読むと直接的な作品評価から逃げている」解説が多いことを指摘し、角田光代、林真理子ら幾人もの著名な女性作家たちが「褒めず殺さず作品を立てる」ためにどのようなテクニックを駆使したかを邪推する。

 また、思想家・鶴見俊輔が、赤川次郎の『真珠色のコーヒーカップ』に寄せた定型外の解説も紹介。赤川読者の大半は中高生であるにもかかわらず、鶴見は読者に「私の同時代の日本に失望している」と語りかける。そして唐突に『風土記』の時代・世界観への憧憬をつづり、「(赤川作品は)私にとって現代の『風土記』である」とダイナミックに着地する。大人でもなかなかついていけないほど飛躍しまくるこの解説が、年若い読者に与えるインパクトについて思いをはせる著者。数ページの解説から透けて見える背景や作品への愛情を深読みし、あたかもボケにツッコむ漫才のような、ひとつのエンターテインメントに仕上がっているのだ。

 王道であれ邪道であれ、テキストの読み方はひと通りではなく、異なる角度からの分析を知ることでさらに楽しめることを、改めて気づかせてくれる本書。読後は、各作品の文庫本を買って、解説を読みたくなってしまう1冊だ。
(保田夏子)

最終更新:2017/04/01 19:00