「性被害は被災と同じくらい大変なこと」被害者支援の立場から見た、性暴力を取り巻く社会の現状
■“私たちの同意ガイドライン”を作っていきたい
――現在、性暴力に関する法律が変わろうとしています。法律が変わることによって、今後、社会はどう変わっていくと思いますか? また、性暴力の抑止になるとは思いますか?
山本 私の考えでは、暴行・脅迫要件が残るということは、性暴力=性犯罪にならないことだと思っています。ただ、今回の法改正で、男性も被害者と認められるようになりますし、今まで親告罪だったものも非親告罪になります。それは遅すぎたくらいで、法改正は当然のことです。あと、監護者(親など)による強制的な性交は犯罪であると認識されるようになることは、とても良いメッセージになるのではないかと思っています。
ただ、どうしてこの暴行・脅迫要件は残るのかと考えると、抵抗したけど奪われてしまった場合でないとレイプと認められない、と考えられていることと根本は変わらないんじゃないかと思います。脅されたり殴られたり、刃物で刺されたり、そういうことがなくても、その人が同意していないのに性的なことをされること自体が暴力であり、そこで傷が発生するということを認識しなければ、まだ性暴力もキャンパスレイプも続くと思います。
――最後に、山本さんの今後の目標を教えてください。
山本 直近の目標は今行っている「ビリーブキャンペーン~刑法性犯罪改法プロジェクト~」の中で、性関係やパートナーシップにおける同意ガイドラインを作ることです。ロビイングに行くと、男性から「何が同意で何が同意じゃないのか、わからないから怖くて不安」という話を聞くことがあります。ワークショップをしながら1,000人くらいから意見を募り、何が同意で何が同意でないかの“私たちの同意ガイドライン”を作っていきたいです。例えば、セクハラにもセクハラガイドラインがあり、上司が「個人的に2人で会おう」と部下に言ったらアウトじゃないですか。
――そういう具体的な例を出さないと、なかなか理解が深まらないということですね。
山本 そう。そこで齟齬があったのなら、そこを共有することで、性暴力につながることもなくなっていくと思います。やはり、「同意なしに性的な行為をすることはおかしい」ということが広がっていくことが大事です。
――おかしいかどうかわからない状態だったら、何も変わらないとも言えますね。
山本 それもそうだし、今まで被害を受けたと声を挙げた人たちが「おかしな人」とか「かわいそうだけど騙されてバカな人」みたいな扱いを受けていたことが、なくなることも、とても大事ですね。そしてその時、性加害をした加害者を適切に処罰するなどの対応をして、「加害者に責任がある」という認識がしっかり広まるといいと思います。
(姫野ケイ)
山本潤(やまもと・じゅん)
1974年生まれ。看護師・保健師。「性暴力と刑法を考える当事者の会」代表。13歳から20歳までの7年間、父親から性暴力を受けていたサバイバー。性暴力被害者支援看護師(SANE)として、その養成にも携わる。性暴力被害者の支援者に向けた研修や、一般市民を対象とした講演活動も多数行う。