少女が早く大人になることを強いる沖縄の社会――暴力の連鎖が生む格差と矛盾
生まれ育った沖縄の地で教育学を専攻する上間陽子さんは、2011年から水商売や性風俗店で働く女性たちへの聞き取り調査をしている。暴力を受けながら育ち、夜の街を生き延びようとする6人の女性たちの記録が、『裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち』(太田出版)として出版された。
■親も生きていくのに精いっぱい
女性たちにとって暴力は、ある意味“慣れ親しんだ”ものだった。子どもの頃から殴られていた女性がいる。デートDVで殴ってくる彼氏の子どもを妊娠し、「父親になれば、彼も変わるかもしれない」と出産したが、何も変わらず殴られ続ける女性がいる。
理不尽な暴力を前に、なすすべがない女性たちは、まだ10代だった。子どもと言っていい年齢の彼女たちが困っているときに、ほとんどの大人は手を差し伸べない。その理由を、上間さんはこう見ている。
「たとえば、私は亜矢という女性のお母さんに対して、ずっと憤りを感じていたんです。娘が性暴行を受けたのに、被害届を出さず事件化しなかった上に、『お前が悪い』と娘を責めた……。でも、お宅に行くようになって気づいたんです。闘うための資源や資本といったものがないと、人は闘えない。だから、子どもの問題に対応するとしても、娘をこれ以上、人目にさらさないようにしよう、そのために娘の責任にしよう、という選択をするしかなかったのだなと思いました。事件は、被害を受けた人のせいではない。ただそれは、お母さんにとってみれば、娘を守る唯一の方法に思えたのだろうと思いました。ほかにも、ひとりで子どもを4人育てているお母さんがいて、時間も余裕もまったくない。そうすると、子どもも親に心配をかけたくなくて、『暴力を受けている』と言わないんです。親も、生きていくのに精いっぱいなんですよね。だから、問題が起きる前に、子どもの問題に介入できないし、何か起きても、こうした消極的な戦略を選ぶという背景が見えてきました」
しかし、中には、子どもたちを見ている大人もいる。どれだけ反抗されても見捨てない中学校教師や、何かあったら自分に連絡してほしいと電話番号を書いた手紙を渡してきた看護師もいる。
「看護師さんから手紙をもらった女性の出産した子どもには障害があって、だから彼女は毎日NICU(新生児集中治療室)にいる子どもに会いに病院に通っていたんですが、家に帰れば、子どもの父親から日常的に殴られていました。やがて、その男性と別れて自立し、看護師を目指すようになります。このように、声をかけることは、目の前にいる彼女を救うだけでなく、将来の彼女にひとつのモデルを示すことでもあるんですね」