「年を取っていても、可愛いさや恥じらい、品位はほしい」80歳女性が家出する漫画で描きたかったこと
■“もしかしたら、うまくいくんじゃないか”と思ってもらえるような話を描きたかった
“いくつになっても若々しく、自分らしく生きればいい”と言うのは簡単だが、老いは本人にとっても周囲にとっても、そう単純なものではない。
「年を取ってから、人間関係や自分を取り巻く環境を積極的に変えていけるかというと、そういう機会もどんどん減って、突き詰めると絶望的な気持ちになってしまう。やはり体力がどんどん落ちていくわけですから、もう1回人生を生き直すことも難しくなって、『もう私はこれ以上動けない、この場所から動けないんじゃないか、この先悪くなる一方じゃないか』という気持ちにもなりやすいのではないでしょうか。
また、本当は弱ってきているはずの高齢者の数が増え過ぎたことによって、あまりにも社会的に負担が大きく、それを受け入れられない社会になってきてしまっているのではないかなと思います。支えようと思っても、支える側も経済的に弱く、受け皿になれなくなってきている状態です。これについてどうすればいいのか、答えは見つけられていません。どうしたらいいのかな……って思います」
こうした問題を考え始めたら“暗くなる”というおざわさん。しかし、気持ちだけでも「“もしかしたら、うまくいくんじゃないか”と思ってもらえるような話を描きたかったんです」と語る。
「読者は30代後半から50代の方が多いようで、『将来どうしようかと思ったけど、こういうおばちゃんになれたらいいな』という反響もいただいています。親のことを思うと身につまされるし、自分自身の老後のロールモデルを求めている方には、響く内容なのではないかと思います。心のどこかで『なんとかしなくては』って思っていても、ちょっと目を背けていたところもあり、普段あまり漫画と関係ない人たちが手に取ってくださっているようです」
■老いを恥じる必要はない
ヒロインのまり子は、80歳でひ孫もいるが、現役の作家でもある。家出後に宿泊するネットカフェで読んだ漫画に触発されて作品を書き上げたり、初恋の相手にときめいたりと、とてもチャーミングで悲壮感とは縁遠いキャラクターとして描かれている。
「年を取っていても、可愛いさや恥じらい、品位はほしいなと思って描きました。また、おばあちゃんとおじいちゃんの恋愛って、枯れた感じでなくてもいいんじゃないかなと思います。微笑ましくて、ほのぼのする感じ。よく高齢者の恋愛物語って、どっちかが死ぬとか、人生に深く関わりがあるような感じになってきますが、そうじゃなくて、自分がその立場になった時に、そこまで思うかっていうと、意外に思わないんじゃないかなって気がします」
最後に、誰しもが避けられない“老い”を迎えるにあたって、おざわさんなりの心構えを聞いてみた。
「誰も、うまく生きることなんてできません。カッコ悪いとか寂しいとか思っても、老いは自分だけのことではないので、恥じる必要はないと思います。また新しい何かを受け入れるということに対して、かたくなにならないで、人の話を聞くことが大事だと思います。お互いに、相手の話を聞けるような気持ちでいたらいい。世の中は、いろんな細かいことが少しずつ変わっていって、気がついたら全部変わっているってことがよくあるので、年を取ることを悲観しないで、少しずつ受け入れて、自分だけの楽しみを持つことですね」
(末吉陽子)