“盛る”科学技術が女子に与えたモノ――スノー大流行の要因は「自撮り=ナルシスト」の打破
■盛り文化は世界へ広がる
スノーのブームは、今年に入って落ち着き、そろそろ女の子たちの間で飽きられてきているともいわれる。その要因について「お手軽すぎるからではないか」と久保は語る。
「女の子たちに、『なぜ盛るのか?』とインタビューすると、最終的には『自分らしくあるため』と言います。大人から見ると、盛った顔は均一化されて、個性がないように見えるのですが、彼女たちは前述したように、まずグループで一体化し、そのなかで細かい差異を付けて個性を出そうとしているのです。例えば、つけまつげが流行していた時期は、大人から見ると同じようなメイクでも、それぞれつけまを組み合わせてカスタマイズしていました」
プリントシール機の加工も、一見同じように見えるが、次々に世界観やコンセプトの異なる機種が登場し、女の子たちのマニア心をくすぐっているのだという。
「ところが、スノーはあまりに簡単に盛れてしまうので、彼女たちがカスタマイズして微妙な個性を出す余地がない。スノーがもう少し女の子たちの手を加える隙を作れば、ブームはもっと長続きするかもしれません」
最後に、久保氏はこの盛り文化は、「今後、世界に広がっていくだろう」と語る。
「1995年にプリントシール機が生まれ、女の子たちは友達とシールを交換するなどして、実際には会ったことのない友達の友達などにも顔が知られるようになり、約20年を経て、すでに日本の女の子たちは、ネット上の自分=“バーチャル・アイデンティティ”と現実の自分、2種類の自分を巧みに操っています。今、世界ではSNSが普及して、ようやく日本の女の子の95年段階の状態……つまり、“会ったことのない人に自分の顔を知られる”ことを体験しているわけです。2025年には、世界70億人のほとんどがオンラインに接続するようになるといわれており、誰もがバーチャル・アイデンティティを持つようになるでしょう。今後どうなるか、女の子たちが通ってきた道のりは参考になります。実際に目を大きくするわけではありませんが、本当の顔を隠して仲間内では認識できるような加工という意味での“盛り”の技術と文化を、世界中の人が真似をしていく時代になるのではないでしょうか」
「Moreteru!」が世界共通語になる日はそう遠くない。
(安楽由紀子)
久保友香(くぼ・ゆか)
1978年、東京都生まれ。2000年慶應義塾大学 理工学部 システムデザイン工学科卒業。06年東京大学大学院新領域創成科学研究科博士課程修了。博士(環境学)。14年より、東京大学大学院情報理工学系研究科特任研究員に就任。専門はメディア環境学。“なりたい自分になる”ことを叶える技術を「シンデレラテクノロジー」と名づけ、現在その研究を行っている。
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