カルチャー
久保友香氏インタビュー

“盛る”科学技術が女子に与えたモノ――スノー大流行の要因は「自撮り=ナルシスト」の打破

2017/03/04 19:00
スマホ向け顔認識カメラアプリ「スノー(SNOW)」より

 昨年、スマホ向け顔認識カメラアプリ「スノー(SNOW)」が大ブームとなった。スノーは韓国のCamp Mobileが開発したアプリであり、フィルター機能(顔認識スタンプ)が豊富で、静止画だけでなく動画の顔にも即座にクマの耳や鼻などをつけることができるほか、一緒に写った人と顔を交換(フェイススワップ)、1人の顔を複製(フェイスコピー)もできる。若い女性の間では、小顔にしたり、目を大きくするのも簡単で「盛れる」と大きな話題となった。このヒットの要因について、若い女性の“盛り”文化について技術的な面から研究している東京大学大学院情報理工学系研究科の久保友香氏は次のように語る。

「要因は3つあると考えています。まず1つ目は、“リアルタイム”で手軽に盛れることがそれまでほとんどなかったこと。リアルタイムで顔認識し、盛れるアプリは、2013年シャープのスマートフォン『AQUOS PHONE EX SH‐04E』にプリインストールされた資生堂のメーキャップシミュレーターアプリ『ビジンメークナビ』などありましたが精度はいまひとつ。同じく13年から中国のMeituが生産するスマートフォンのシリーズ『Meitu Kiss』にプリインストールされている『美図秀秀』、日本では『Beauty Plus』と呼ばれているものは、性能はいいのですが日本では未発売でした。そんな中、スノーの顔認識技術は抜群に高かったのです。おそらく最先端の機械学習を使用しているのではないかと思われます」

 機械学習とは、大量のサンプルを集めて解析することで、さらに解析能力を向上させていく人工知能の分野の1つ。スノーには、友達と画像を簡単に共有できるSNS機能があり、撮影した画像を投稿できる。ユーザーが増えれば増えるほど投稿される画像が増え、スノー自体の性能も向上していくのではないか、と久保氏は推測する。一般的に顔認識は白目と黒目の組み合わせに反応するが、スノーは白目と黒目の判別がしにくいスターバックスのマークや、アニメのキャラクターなども認識できるほど精度が高い。

「2つ目の理由として、スノーで加工した顔は本当の顔がわかりにくい。しかし、仲間同士で見れば誰だかわかる。“顔”という個人情報の消し方が絶妙なんです。それも技術力の高さによるものです」

 久保氏によると、同じように動物の耳を付けるなどの加工ができるアプリ「Snapchat」は、実際の顔立ちが想像できてしまう。だが、スノーであればネット上に本当の顔を晒すことに抵抗がある人でも「スノーなら大丈夫」と気軽に撮ってSNSにアップできるのだという。

「3つ目として、クマやネコなどの加工を施すことにより、『遊びだから』『友達と楽しみたいから』といった“自撮りをすることへの言い訳”がつくことです。日本人の女の子は『ナルシスト』と思われたくないという気持ちが強いので、こうした言い訳できることは重要な要素。総合的に見て、スノーは、プリントシール機に次ぐすごいものが出た、という印象です」

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