「他人の記事をパクるのはこんな人」弱小出版社の編集者が語る、パクリ騒動が起こるワケ
信ぴょう性の低い情報の掲載や、他サイトの記事の無断転載、いわゆるパクリ記事を掲載していたことで昨年12月、DeNA運営の医療情報キュレーションメディア「WELQ」が大炎上し閉鎖。ネットメディアのあり方が問われた事件であった。
この騒動が起こったのと同時期の昨年11月29日に出版されたのが『重版未定』(河出書房新社)。弱小出版社にありがちなリアルな現状が、かわいらしい2頭身のキャラクターたちによって描かれている漫画だ。著者は、出版社に勤務している川崎昌平さん。大手とは違う小さな出版社の編集者はキュレーションメディアにおけるパクリ騒動をどう捉えるのか、お話をうかがった。
■スマホが普及していなかった時代は、紙媒体でもネット画像のパクリ本があった
――キュレーションメディアでのパクリが問題となっていますが、紙媒体でも、エッセイストの葉石かおりさんの著書を無断で再編集したムック本『日本酒入門』(枻出版)が回収となったことがあります。枻出版は弱小とはいえませんが、弱小出版社となると、かけられる経費も人も少ないので、パクリ騒動が起こるのかと思ってしまいます。実際のところは、どうなんでしょうか?
川崎昌平さん(以下、川崎) 時代的には2000年代中盤あたりに、紙媒体による「ネットの画像を無断借用して編集した本」が多かったと記憶しています。当時はまだスマホ全盛期ではなく、「ネットで広まっているおもしろい画像を集めたもの」に価値があったのでしょう。今なら「まとめサイト」がその役割を果たしてくれるんでしょうが、当時はギリギリですが、そうした本が企画として成立する余地があった。
僕の見立てですが、紙媒体でパクリをやる出版社は、弱小というより、刊行点数を増やさないといけない、厳守しないといけないところなのではないかと思います。「信念を持った弱小出版社」は、往々にして専門性の高さを売りにしている。したがって「パクりまでしてローコスト&大急ぎで本を作る必然性」がないわけです。歴史と伝統のある弱小出版社は、パクらず時間をかけて、思想や人文系の本を作っている。もちろん専門性の高さ=読者の少なさなので、少部数しか発行しませんし、新刊を出す→返本される→新刊を出す、という苦しいサイクルはどこも同じなのでしょうが……本当に作りたい本を作れているのは確かです。
その意味では、「弱小出版社は、実はあまり儲けようとしていない」のではないかと僕はにらんでいます。儲けることよりも、会社を続けることを目的としているのではないかと。営利企業がそれでいいのか、というツッコミももちろんあるわけですが、「急いでそこそこ売れそうなタイトルをローコストで作るためにパクる」よりはマシだと考えています。まあ、弱小の定義も難しいですけど。
――しかし、会社的には売り上げを上げないとまずいですよね。弱小出版社は、どのように生き残っているんですか?
川崎 永遠の自転車操業ですね。こぐのをやめると倒れちゃうので、こぎ続けなきゃいけない。良いと信じて作った本がしっかり売れ……ないから弱小なのですが、返本の山が生じると、倒産してしまいます。ですから新刊を出し続け、数字上の売り上げを計上しつつ、また次の本を出せるようがんばる。新刊至上主義なのは、大手も弱小も規模こそ違えど、本質的には変わりないと思います。ただ、そういうことは考えすぎると暗澹たる気持ちになるので、編集者はそこを考えずに勤務すべし、というのが私の持論です。