カルチャー
日本女子大学現代女性キャリア研究所・大沢真知子所長インタビュー(前編)

「配偶者控除を廃止すれば女性が働きやすくなるわけではない」現代女性が本当に活躍するためには?

2017/01/12 15:10

■配偶者控除の廃止だけを議論しても意味がない

――配偶者控除廃止だけが問題ではなくて、雇用の正規・非正規の問題にも密接につながっているということですか?

大沢 日本は正規雇用と非正規雇用の間に、ものすごく大きな賃金差があります。なぜ非正規の賃金がこんなに安く、経験年数に伴って上昇することもないのか? 生産性が正規と非正規の間で明らかに違っていればわかりやすいですが、同じ仕事をしている場合もあります。また、非正規の約3割は正規と同じ時間働いていることが統計上わかっています。

 非正規の賃金がもっと高ければ、そもそも配偶者控除が廃止になっても大した問題にはなりません。あたかも女性が活躍できないのは配偶者控除があるからだという理屈がまかり通っていますが、そうではない。非正規の人の中には会社で中核の仕事をしている人もいるのに、「非正規」と呼ばれて賃金が低い。そういう労働市場の仕組み、構造に問題があることを、もっと考えていく必要があります。この問題の解決のために、同一労働同一賃金についての指針が作成されましたが、企業の努力義務にすぎません。

 加えて企業にとっては、103万円、106万円の壁があることで、支払う賃金も低いままでいい、社会保険料の負担もないのであれば、非正規で十分だと、非正規を雇う理由を与えてしまうわけです。

 今回は年収1,220万円までの世帯主を対象に、控除を受けられる配偶者の年収の上限が103万円から150万円に引き上げられましたが、配偶者控除がなくなっても106万円や130万円の壁があるので、引き続き、既婚女性の就労は100万円から149万円に抑えられるのではないでしょうか。しかし、それは女性の就労調整の結果ではなく、人件費を削減したい企業側の都合によるものです。

 そうは言っても、若者の人口が減少していくと、「壁」を維持していれば良い人材が育たない。それは長期的に見ると会社にとってもマイナスです。非正社員の正社員化を進めている会社も増えていますが、そうしないと良い人材が他の企業に移ってしまうからです。

 女性の活躍を推進するということであれば、まずは就労を希望する子育て中の主婦たちのために、就職を前提としたインターンシップ制度を整えるとか、働くスキルを獲得できるような通信講座の受講料や授業料に対する助成、企業に対して非正規から正規への移動を促すためのインセンティブの付与などをすることによって、女性が就業能力を身につけ、子育て後もきちんとした処遇で働けるような社会をつくっていかなければならないと思います。問題は、主婦が再就職をしようとしても子どもを預けるところがなかったりして、希望に合ういい仕事に就けないことで、そこにきちんと踏み込んでいかないまま、配偶者控除の廃止だけを議論しても「なんのための改革なの?」という話になってしまいます。
(田村はるか)

(後編へつづく)

大沢真知子(おおさわ・まちこ)
シカゴ大学ヒューレット・フェロー、ミシガン大学ディアボーン校助教授、日本労働研究機構研究員、亜細亜大学助教授を経て、日本女子大学人間社会学部現代社会学科教授。2013年、同大学の「現代女性キャリア研究所」所長に就任。内閣府男女共同参画会議の専門調査会、厚生労働省のパートタイム労働研究会などの委員を務める。

最終更新:2017/01/13 17:16
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