サイゾーウーマンカルチャーインタビュー電通事件は過労死の歴史では特殊 カルチャー 下村労働衛生コンサルタント事務所・下村洋一所長インタビュー 「電通事件は過労死の歴史からすると非常に特殊」産業医が語る、働く女性が身を守る方法 2016/11/16 15:00 インタビュー 下村洋一所長 新卒で電通に入社した女性社員、高橋まつりさんが長時間労働の末に自ら命を絶った事件が毎日のように報道されています。高橋さんのSNSには、長時間労働だけでなくパワハラやセクハラとも取れる凄まじい苦痛が綴られており、事件の痛ましさがリアルに伝わってきます。どうすればこのような悲劇に見舞われずに済むのか、労働者はいま一度考えてみる必要がありそうです。今回は、労働者のメンタルヘルスや健康に詳しい、下村労働衛生コンサルタント事務所の下村洋一所長に、過労死から身を守る方法を聞きました。 ■睡眠が5時間以下になると、病気になりやすくなる ――今回亡くなった電通の女性社員は、月105時間の残業をしていたと報道されています。一般的に、人は月に何時間以上働くと、体調を崩してしまうのですか? 下村洋一所長(以下、下村) 人によって疲れを感じやすい人と感じにくい人がいるので、何時間以上労働すると体調を崩すと一概には言えませんが、現在は睡眠時間を基準に考えられています。法定労働時間が8時間です。月20日間出勤し、100時間残業をすると1日当たり5時間の残業をすることになり、13時間労働することになります。1日は24時間なので、労働後の時間は11時間しか残りませんよね。そのうち、通勤や食事、入浴など生活に必要な時間に最低5時間ほど取られます。特に女性は出かける支度にも1時間ほどかかりますよね。となると、睡眠に使える時間は5時間ほどしか残りません。 いろんなデータを見ると、睡眠時間が5時間以下になると、病気になりやすいという結果が出ているんです。逆に、8時間以上寝ても病気になりやすいという研究結果もあるのですが、基本は5時間以上寝ないと不調を感じやすくなります。なぜ眠れなかったかというと、仕事で遅くなったせい。これは人権侵害なのではないかということで、100時間以上の時間外労働は過労死につながるという基準ができたんです。 ――睡眠時間は人によってもさまざまですよね? 下村 はい。アインシュタインは8時間以上寝ていたとされていますが、ナポレオンは3時間睡眠でも大丈夫だったといわれています。人によって適した睡眠時間が違うので、過労死かどうかは、過労死裁判の際に裁判官ですら判断に迷います。しかし、現在の基準では、1日5時間以上睡眠を取らないと調子を崩しがちになるという考えです。 ■全ての仕事で満点を取ろうと思わず、マラソンのペースで走る ――現代は総合職などでバリバリ働く女性も多いです。男性の過労死と女性の過労死で、何か違う点や、気をつけるべき点などはありますか? 下村 そもそも、女性は平均寿命も長く、女性ホルモンがコレステロールを下げる作用をするおかげで、男性よりも病気になりにくいんです。40代までの女性が心筋梗塞で突然死するなんて、聞いたことないでしょう? 女性で若くして亡くなる人は、乳がんや子宮がんなど婦人科系のがんが多く、この場合は労災にはなりません。これまで過労死といったら男性特有の労働災害だったんです。だから、今回電通の女性社員が過労自殺をしたのは、過労死の歴史からすると非常に特殊な例だと思います。 1985年に男女雇用均等法が制定され、男性と同じような働き方をする女性が増えてきました。それ以前は、結婚したら仕事を辞めて専業主婦になる人が多かったのですが、会社で働くことでストレスのかかる生活をするようになり、女性の健康が脅かされつつあります。今後は女性の過労死も増えてくるのではないかと思います。女性はもっと、美容だけでなく、自分の健康に気を使うべきです。 ――ストレスに強い人と弱い人がいると思うのですが、どんな人が過労によるうつになりにくく、どんな人がなりやすいのですか? 下村 うつになりにくいのは、会社で偉い人ですよね(笑)。うつになりやすいのは、やはり新卒で入ったばかりの社員。今は、会社から即戦力を求められ、若い人にガンガン仕事が振られる時代です。でも、100mをずっと全速力で走っていたら、疲れてしまいます。「腰掛け就職をして、あとは結婚して寿退社」という考えの女性ならばいいですが、多くの人は定年まで50年近く働くわけです。100mダッシュでは50年間も走れません。だから、定年までなんとか走れるよう、ペースを考えてマラソンをするんです。 具体的に言うと、頑張るときは頑張って、暇なときは休むんです。A、B、C、3つの仕事があるとしたら、まずは絶対にやらないといけない仕事Aに手をつけます。次に、できたらやるBの仕事。そして、Cの仕事は、やってもやらなくてもどちらでもいいならば適当にやる。絶対にやらないといけない仕事と、そうでない仕事があると思うんです。優先順位をつけて、メリハリをつけましょう。全部で満点を取ろうと思わず、適当にサボることも大事です。 次のページ ポジティブな思考や、健康的な生活を心がける 12次のページ 過労死・過労自殺の救済Q&A―労災認定と企業賠償への取組み 関連記事 吉田羊「過労でダウン」は、ジャニーズ“自宅7連泊デート”が原因!? トドメはフジ主演ドラマの不評か(株)ワーク・ライフバランス社長・小室淑恵が伝授!残業ゼロで最高の成果を出す秘訣“男社会”だった吉本興業の伝説的女性マネジャーが語る、セクハラ・パワハラと女の媚「産休を取る女はプロ失格」日テレアナウンス部長、ママアナへのパワハラ発言「セクハラ発言が許容される社会へのモヤモヤ」詩人・文月悠光が語る、女性の生きづらさとは