カルチャー
日本女子大学現代女性キャリア研究所・大沢真知子所長インタビュー(前編)

「配偶者控除を廃止すれば女性が働きやすくなるわけではない」現代女性が本当に活躍するためには?

2017/01/12 15:10
日本女子大学・現代女性キャリア研究所所長の大沢真知子さん

 「働く女性の裾野を広げよう」と声高にアピールしてきた安倍政権の一大課題である税制改革。その中で廃止が取り沙汰された「配偶者控除」は、結局、廃止が見送られることになったが、2016年12月22日に閣議決定された17年度の税制改正大綱で、満額の控除が受けられる配偶者の年収上限は103万円から150万円に引き上げられることになった。「配偶者控除が廃止されれば、女性が活躍できる社会がやってくる!」と考える人は少なくないようだが、本当に女性が社会で活躍するための課題は、想像以上に、複雑に絡み合いながら存在している。

 「配偶者控除廃止問題」から見えてくる、現代女性が本当に活躍するために必要なことについて、日本女子大学・現代女性キャリア研究所所長の大沢真知子さんに話を聞いた。

■年収が103万円を超えないと、所得税がかからない

――そもそも配偶者控除とは、どのような制度で、なぜ作られたのでしょうか?

大沢真知子さん(以下、大沢) 1961年に創設された制度で、それまでは16歳以上の扶養家族がいる世帯主に認められていた「扶養控除」に主婦も含まれていたのですが、そこから独立して作られました。当時の議論では、自営業の人ならば「基礎控除」があるのに、専業主婦の場合は所得がないので基礎控除がない。ということから、妻の分の代わりに、夫に配偶者控除を認めた経緯があったと聞いています。また、背後には妻の内助の功を認める意味合いもあったようです。

 「103万円の壁」と言われますが、働く人は、すべての納税者が対象の「基礎控除」38万円と、給与所得者が対象の控除65万円の2つの控除が受けられます。つまり、誰でも年収が103万円(2つの控除の合計)を超えないと所得税がかからない仕組みになっています。

 配偶者控除とは、妻の所得が最低課税限度額の103万円までなら、夫の課税対象所得から38万円を控除できる制度のことです。

――今年度の廃止はひとまず見送られましたが、なぜ、廃止が検討されるようになったのですか?

大沢 制度が導入された時には、既婚女性で被雇用者(企業・団体等に雇われている人)として働いている女性は、15歳以上人口の1割程度。農業部門や中小企業で自営業者や家族従業者として働いている既婚女性は多かったのですが、被雇用者として働く女性は少なかったのです。しかし今は被雇用者の方が多くなっています。

 さらに、働く女性が増加していることに加えて、日本の女性の所得分布を見ると、100万円あたりにピークがあり、その後、150~199万円が少なくなっています。ここから、税制の壁が女性の就業を抑制させているとして、女性の働き方に中立ではないと考えられたのです。

 先ほどの「103万円の壁」は、年収103万円を超えると世帯の税負担が増えるため、自然に103万円以内に抑えるというインセンティブ(動機付け)が働いてしまうということです。

 ただ、87年に「配偶者特別控除」(年収103万円を超えても141万円未満の間で、金額に応じて段階的に受けられる控除)という制度によって解決されています。それにもかかわらず、壁があるのはなぜかというと、妻の所得が103万円を超えてしまうと、夫に企業から支給される「配偶者手当」がなくなってしまうのが大きな原因の1つです。15年の民間企業における配偶者手当は、月あたりの平均で1万3,885円でした。

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