既婚/独身、専業主婦/仕事女の分断と希望を描く『グッドナイトムーン』
■分断する女たちがつながれるとき
2人の子どものうちで、焦点が当たっているのは12歳のアンナである。これは、多感な思春期に足を踏み入れたばかりの少女が、大人のややこしい世界をかいま見、大人の女性たちに振り回されたり振り回したりしながら成長していく物語でもある。
ジャッキーとイザベルは、アンナの成長を促す立場にいる。たまたま実母と継母というポジションに立っているが、これは年上の女と年下の女が、もっと若い次世代の女をそれぞれのやり方で導き育てることで、出会い直すという話なのだ。
私たちはある程度の年齢になれば、自分より年下の者に指南する立場に立たされる。自分たちの後から来る者のために道を作り、その若い人がいつか1人で歩いていけるように後押ししてやること。それは親であろうがなかろうが、年長者の重要な「ミッション」だ。やがてもっと若い後輩の上に立つようになった年下世代に、年長者は教え方を授け、バトンタッチする。
もちろん属する世代によって、若い人に伝えたい中身ややり方は少々違うかもしれない。でも自分たちの歩んできた道を振り返り、その中から次世代にいいものを受け渡したい、そして幸せになってもらいたいという願いは同じだろう。その一点においては、立場や文化の異なる年上の女と年下の女も、手を結べるのではないだろうか。
「私はアンナの過去を、あなたは未来を担う」というジャッキーからイザベルに贈られた言葉には、そんな希望が込められているのだ。
大野左紀子(おおの・さきこ)
1959年生まれ。東京藝術大学美術学部彫刻科卒業。2002年までアーティスト活動を行う。現在は名古屋芸術大学、京都造形芸術大学非常勤講師。著書に『アーティスト症候群』(明治書院)『「女」が邪魔をする』(光文社)など。近著は『あなたたちはあちら、わたしはこちら』(大洋図書)。
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