既婚/独身、専業主婦/仕事女の分断と希望を描く『グッドナイトムーン』
――母と娘、姉と妹の関係は、物語で繰返し描かれてきました。それと同じように、他人同士の年上女と年下女の間にも、さまざまな出来事、ドラマがあります。教師・生徒、先輩・後輩、上司・部下という関係が前提としてあったとしても、そこには同性同士ゆえの共感もあれば、反発も生まれてくる。むしろそれは、血縁家族の間に生じる葛藤より、多様で複雑なものかもしれません。そんな「親子でもなく姉妹でもない」やや年齢の離れた女性同士の関係性に生まれる愛や嫉妬や尊敬や友情を、12本の映画を通して見つめていきます。(文・絵/大野左紀子)
■『グッドナイトムーン』(クリス・コロンバス、1998) ルーク×ジャッキー
既婚女性と独身女性、子どものいる女といない女、ワーキングマザーと専業主婦。女と女の間に生じるディスコミュニケーションの原因として多いのは、こうした社会的立場の違いだ。
ネットの掲示板や週刊誌などを見ると、そこから生まれる感覚のズレやトラブルの話題に事欠かない。生き方の多様性が賞賛され、以前より自由な選択肢が開けたと言われる一方で、私たちの間には細かくデリケートな「壁」がたくさん築かれているかのようだ。
無神経にそこを踏み越えると、「いいよね、専業は」「育児の苦労も知らないくせに」「結婚できるだけマシなのに」という視線や言葉が飛んでくる。初対面の人が既婚か独身か、兼業か専業か、子どもがいるかいないかに、今ほど女性たちが敏感な時代はないのではないだろうか。
他人と友好的な関係を保っていこうと思えば、相手の立場を思いやり尊重するのが賢明ということは、誰でも知っている。しかし互いに、最初から相容れない関係として出会ってしまった場合はどうだろう。しかもそこに、一回りくらいの歳の差と文化の差が加わったら、「壁」はとんでもなく高いものになりそうだ。それはどうやったら乗り越えられるのだろうか。
『グッドナイト・ムーン』(クリス・コロンバス、1998)に登場する2人は、専業主婦で二児の母である年上女性と、仕事をもつ独身年下女性。前者と離婚した男が後者の恋人となっており、2人は前妻vs(近い将来の)妻、実母vs(近い将来の)継母という、この上なく難しい関係として出会う。
この作品が優れたダブルヒロインものとなっているのは、普通ならどちらかにフォーカスを絞り感情移入させるところを、極力平等な距離感で描いている点にある。2人の女性は、理解不能な相手に時に反発しぶつかり合いながらも、一つの「ミッション」の遂行において次第に深く結びついていく。
ここではまず、仕事をもつ独身年下女性の物語から見ていこう。