ダウンタウンの「笑ってはいけない」は暴行罪にならないのか?
「ドラマのこのシーンってありえるの?」「バラエティーのあのやり方ってコンプライアンス的にどうなの?」……テレビを見ていて感じた疑問を弁護士に聞いてみる、テレビ好きのための法律相談所。
〈今回のバラエティー〉
『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!!大晦日年越しスペシャル』(日本テレビ系/12月31日土曜日午後6時30分~)
■他人のお尻を叩いたら、基本的には暴行罪が成立
『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!!』(日本テレビ系)の毎年大みそか恒例のスペシャル番組「笑ってはいけない」シリーズ。11作目となる今年のテーマは「絶対に笑ってはいけない科学博士24時!」で、ダウンタウン、ココリコ、月亭方正の5人が新人科学研究員に扮してさまざまな研修を行うという。彼らには「絶対に笑ってはいけない」というルールが課せられ、笑った場合は、その場でお尻を棒やムチなどで叩かれるというものだ。
大げさにリアクションしているだろうということを考慮しても、毎回かなりの強さで叩かれており、痛いにちがいない。そもそも、他人のお尻を叩くという行為は暴行罪に当たらないのだろうか? また、お笑い芸人などは特に、気軽に人の頭や肩をはたいたりするが、あれも罪にならないのか? アディーレ法律事務所の岩沙好幸弁護士に聞いた。
まず、暴行罪の定義について、岩沙弁護士は次のように述べる。
「暴行罪とは、人の身体に対し不法に有形力(殴る、蹴るといった直接的な暴力)を行使する犯罪なので、他人のお尻を叩いたら、基本的には暴行罪が成立します。ちなみに、他人のお尻を叩いた結果、叩かれた人がけがをしてしまった場合には、暴行罪ではなく傷害罪が成立します。
暴行罪での刑罰は、2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料(刑法208条)、傷害罪での刑罰は、15年以下の懲役または50万円以下の罰金(刑法204条)です」
■叩かれることについて承諾していれば、暴行罪には当たらない
では、「笑ってはいけない」の罰ゲーム、出演者が笑ったらお尻を叩くという行為は暴行罪に当たらないのだろうか?
「被害者が暴行や傷害を承諾している場合には、その承諾を得た動機や目的、暴行・傷害の手段や方法、傷の程度などによって、違法ではないとして、暴行罪や傷害罪が成立しない場合があります。
また、形式的には暴行や傷害に当たる場合でも、正当な業務による行為は、犯罪になりません。たとえば、病院で手術を受ける場合、体にメスを入れても、病気を治すという大きな目的・効果があるので違法とはならないのです。ボクシングの試合なども、スポーツとして認められているので違法にはなりません。
お笑い番組は、言葉だけでなくリアクションでも視聴者を笑わせることを目的としており、笑ったらお尻を叩く程度であれば、ボクシングの試合と同じく、正当な業務による行為と考えることもできるでしょう」
つまり、「笑ってはいけない」の出演者は、テレビ番組で笑いを取るという目的があって、「笑ったらお尻を叩く」というルールを承知の上で出演しており、お尻を叩かれることについて承諾しているといえるので、暴行罪や傷害罪は成立しないと考えられるのだ。
また、岩沙弁護士によると、バラエティー番組でお笑い芸人などが頭をはたく行為についても、笑ったらお尻を叩くのと同様に、その番組に出ている時点で、はたかれる人の承諾があると考えられ、暴行罪には当たらないそうだ。
では、恋愛ドラマで見られる「頭ポンポン」は大丈夫なのだろうか? 岩沙弁護士は、「頭ポンポンも、はっきりとした承諾まではないかもしれませんが、明らかに嫌がっている場合でなければ、黙示の承諾があるということで、暴行罪には当たらないでしょう」と話す。
現状、テレビで放送されている「叩く」「はたく」等の行為は犯罪とはいえないようだが、過去には番組収録中に出演者がけがをするケースもたびたびあり、過剰な演出等によって事故が起きないように願いたいものだ。