日本スピリチュアル界のドン・江原啓之のご高説から得られる“癒やし”の正体
羨望、嫉妬、嫌悪、共感、慈愛――私たちの心のどこかを刺激する人気芸能人たち。ライター・仁科友里が、そんな芸能人の発言にくすぐられる“女心の深層”を暴きます。
<今回の芸能人>
「お母さん、とっても努力して苦労して、一生懸命育ててくださった」江原啓之
『火曜サプライズ』(日本テレビ系、12月13日)
個人的な話で恐縮だが、女性向け婚活指南本を出したことがある。婚活がうまくいかないのは、“やり方”が間違っているから。そこを直しさえすれば、結果はついてくるはず……と思っていたが、婚活に悩む独身女性と接しているうちに、彼女たちが必ずしも“やり方”を求めていないことに気付いた。ハウツー本は、実行してこそ意味があるが、ある種の女性は「悩んでいます」「私なんてダメです」を繰り返しながらも、頑として具体的な行動を起こすことはない。行動するしないは本人の自由だし、それぞれの事情があるだろうから、著者として、無理にやれというつもりはないが、テレビが占いやスピリチュアルをもてはやす理由がわかった気がした。
占いの基本スタンスは、「うまくいかないのは運気が悪いからで、自分のやり方、あり方を変える必要はない」である。例えば、「年収600万以上の男性と結婚したいが、婚活がうまくいかない32歳の女性」がいたとする。婚活のエキスパートである結婚相談所の相談員であれば、「年収600万以上の独身男性の割合」と「30歳以上の独身女性が、35歳までに結婚する可能性」などの客観的データと、相談者から受ける印象をもとにアドバイスをしていくのが基本だろう。
それは結果を出す方法といえるが、“テレビ受け”するかというと、疑問である。現実的すぎるアドバイスは痛みを伴うので、相談者や相談者と同じ悩みを持つ視聴者の機嫌を損ねる場合があるからだ。その点、占いは罪がない。多少、相談者にキツいことを言ったとしても、「〇年に結婚のチャンスがある」「仕事関係で知り合う」というふうに、自分を変えなくても、明るい未来が待っていると伝えることで、相談者に確実に希望を与えてくれる。それに、当たるも八卦、当たらぬも八卦というように、当たらなくても問題になることはない。
占いの提供するものが“明るい未来”だとしたら、スピリチュアルが相談者へ施すのは、“強い肯定感”ではないだろうか。日本のスピリチュアル界のドン・江原啓之氏が出演していた『オーラの泉』(テレビ朝日系)を見ていると、相談者が抱える悩みやトラブルに対して、「魂の成長」「気づき」という言葉を用いて解説していることに気付く。苦労することによって、人は魂を成長させ、見過ごしていたことに感謝できるという意味だが、これも、「苦労をしたのはあなたのせいではない」と言い換えることができるだろう。苦労を経験して、魂を成長させることができたという表現からは、選民思想的な印象を受けるため、そう告げられた人は優越感を抱くはずだ。