カルチャー
[女性誌速攻レビュー]「婦人公論」11月8日号

毒母問題において母娘が“共犯関係”になる理由を、「婦人公論」の特集に見た

2016/11/04 18:30

■お母さんは、娘にとっては教祖

 家父長制の中で夫に、舅、姑に、親戚に、子どもたちにひたすら尽くす母親を目の当たりにして、自分が母を支えなければ……という使命感にも似た思いを抱かされてきたこの世代の娘たち。冒頭のアンケートにも「父の酒乱やたちの悪い姑にじつによく対応していましたね。でも私は母みたいにはなれません」「私はあなたとはまったく違う生き方をします」という心の叫びが見受けられます。

 さて、そんな「優等生にならざるを得ない娘」の対になるであろうインタビューがありましたので、紹介したいと思います。木村多江「父の死から10年、ようやく母の苦悩がわかった」。

 小学校から規則の厳しい女子校に通っていたものの、芝居に目覚め、ミュージカル科のある専門学校へ進学した木村。「高校までは門限が18時だったのに、深夜に帰宅して叱られたり、ボーイフレンドと長電話をして電話線を切られたり」父親からは毎日のように怒られていたよう。「ところが、私が21歳のとき、父が突然、脳卒中で亡くなったのです。父は49歳。私は自分を責めました。毎日心配をかけ、父をイライラさせてしまったのは私だ。そのせいで父は亡くなり、母の幸せな人生も壊してしまった。だから私は幸せになってはいけない」。

 木村はテロや事故の遺族を訪ねるドキュメンタリー番組の取材を通し、「生きていていいのか」「幸せになってはいけない」という呪縛から解放されるわけですが、注目したいのはむしろその後。初めての妊娠で「切迫流産の危険があり8か月にもわたる入院生活になってしまった」ときの話です。トイレ以外動けないストレスを、毎日見舞いにやってくる母親にぶつける日々。

 「そんな入院のある日、突然理解したのです。『“母親”というものを学ぶための試練を今、私は与えられているんだ』と(中略)母親は忍耐するものであり、何があってもすべてを受け止めていく、そういう存在なのだ、と。母になるとはそういうことなのかと気づいたのです」。そのときから母親を見る目が変わったという木村。「すべてを受け入れ、すべてを愛する母性と慈愛の心をもって、初めて“母なるもの”は成立する。あのとき、忍耐を経験していなかったら、私は母親になる資格はなかったと思います」。

 こんな壮大なものを背負わされてしまうのが「母」。だとしたら、いつしか母になるかもしれない娘たちが母の「共犯」になってしまうのは必然なのかもしれません。家庭内教祖である母、そして娘はその参謀となる。教祖のエゲつない部分を知りながらも、そこに加担せざるを得ない。そこには「すべてを愛し、受け入れ、耐え忍ぶこと」なんて到底できるはずもないのに、その役目を担わされる母親への哀れみと、いつか自分もそれをしなければならないのかという諦念、そして次期教祖候補たる野望もあるのかもしれない。そして「老い」が教祖のカリスマ性をほころばせたとき、参謀である娘たちもふと我に返り、教祖への怒りを爆発させるのでしょう。

 母への過大な要求がなくならない限り、母と娘の問題は永遠に続く気がしてなりません。
(西澤千央)

最終更新:2016/11/13 13:03
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