カルチャー
太田啓子弁護士インタビュー第2回

相手がセックスに合意していたと思ったから無罪? 強姦罪の立件が難しい理由

2016/11/30 15:00

■「合意の上のセックス」って、なぜ思えるの?

――女性は、あの弁護人のコメントの発表を承諾していたのでしょうか?

太田 後に被害女性が「週刊現代」(講談社)の取材に応じて話したという内容(第1回第2回)が出てきましたね。これの記事によると、あの弁護人コメントの内容を、被害女性側は事前に知らされていなかったということです。ひどいと思いました。これでは、弁護人によるセカンドレイプだと思いますね。

 弁護人コメントの内容に戻りますが、「合意があるものと思っていた可能性が高く」「違法性の顕著な悪質な事件ではなかったし、仮に、起訴されて裁判になっていれば、無罪主張をしたと思われた事件」というところは、「本当は無罪主張をしたいが、諸事情から示談で事件を早期に終結させることとした。そもそも性的関係について合意があるものと思っていたのであるから、仮に有罪と認定されるとしても違法性は低く、悪質とはいえない」ということのようです。

 性的関係があったこと自体は双方に争いはない(事実として認める)が、加害者とされる方が「相手の合意があると思っていた」場合、それは「無罪」あるいは「違法性が低い」となるという一般的知見があるかのごとく言い切っているのが、弁護人コメントに対して感じる最大の違和感です。

 必ずしも、「無罪」あるいは「違法性が低い」とは言いきれないはずです。「合意があると思った」としても、そのことにそれなりに合理性はあるということでないと、「故意はない」とか「行為態様の悪質さは低い」とは言えないはずです。

――「合意があると思った」ことについての合理性に疑問を感じるというのは、たとえばどういうところでしょうか?

太田 前提として、犯罪は原則的に「故意」がなければ成立しません。「故意」とは、「わざと、その行為をしようとする」ことなので、強姦罪でいう「故意」とは、相手が同意していないのを知っていながら「わざと」性交しようとする意思です。なので、「相手の同意があると思って性交した」場合には、「故意がない」から「強姦ではない」という理屈になってしまうんですね。

 殺人罪を例にお話ししますと、「確かに自分は、鋭利な刃物で相手の頸動脈付近を突き刺した。でも、それは殺害行為ではないと思っていたので、殺人罪の故意はない」という主張を聞いたら、「そんなの不自然すぎる、あり得ない」と思いますよね。「殺害行為はしていない」と思ってさえいれば、すなわち「故意がない」とはならないわけです。

 強姦罪についても同様です。「相手が合意していたから、強姦行為はしていないと思っていた。だから強姦罪の故意はない」という主張は、理屈上はあり得ます。

 そのとき問われるのは「相手が合意していたと思った」という認識をどこまで、平たく言えば「あり得る」と認定するかどうかです。「よくそのシチュエーションで、相手が性的関係に合意してると思ったって言えるよね?」ということは、実務(実際の案件)ではよく出合う「加害者」の言い分です。

――具体的にお話しいただけますか?

太田 たとえば、路上で見知らぬ女性を拉致して車の中に連れ込み、人けのない山中に連れて行って性的行為をしたという場合、加害者側が「相手の女性は嫌がるそぶりもなく、自分との性的行為に同意していた。だから強姦じゃない」と言ったとしたら、さすがに一斉に「それはないだろう」と、みんな突っ込むと思うんです。

 ですが、もともと面識のある間柄だったらどうでしょうか? たまたま2人きりになる場面があって、そこで性的関係があったら? 男性上司が女性部下の自室に入って、そこで性的関係があったら? 女性部下は「『何もしない。一緒に酒を飲もう』と言われたから入れただけで、性的関係なんて合意していなかった」と言い、男性上司は「家に入れてくれて2人きりになった時点で、性的関係には合意があると思った」と言ったら? もともと知り合いではなかったけれど、急に親しく接近したように見える事情があったら? だんだん、「合意があったと思っても無理はない」という意見も出てきそうですよね。

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