日本女性の社会進出を進めるためには? 女性管理職の割合が高いタイの社会環境から探る
■夫の給料だけで子どもを育てるのは厳しい
総務部部長のスパガンヤーさん
小田原氏の元で働く、総務部部長のスパガンヤー・アーウラートサップシンさん(36歳)にお話を聞いた。同社においてすでに12年のキャリアがあり、タイ企業に勤める同い年の夫と幼稚園に通う子どもがいる。
まず、タイ人女性から見て、タイで女性の社会進出が進んでいるのはなぜだと思うか、意見を聞いた。
「タイ人女性の勤労意欲が高いからだと思います。子どもの養育費、その他いろいろなものを稼ぎたい。私個人の場合、旅行に行ったり買い物をしたり、そんなときに夫の稼ぎを当てにしたくないというのもあります」(スパガンヤーさん)
タイでは、親や、幼い妹や弟、自分の子どものために、無理をしてでも仕送りをする人がいる。特に地方出身者に顕著で、貧しい田舎の農村にいる家族は、仕送りがないとたちまち破綻する。学歴が低いため、家族を養うには売春に身を投じるしか道がないといったケースも少なくない。
近年は出稼ぎ労働者がバンコクで子育てをすることが増え、子の世代はバンコク出身となる者が増えてきた。核家族化も進み、祖父母より自分の子どもに金をかけるようになっている。幼稚園や託児所だと、保育料は1学期(タイは2期制)で2万バーツ(約5.9万円)を超えるところもある。一般的なタイ人会社員の給料は2万バーツ以下、外資で6万バーツ(約17.7万円)程度。そうなると、タイ企業に勤める夫の給料だけで子どもを育てるのは厳しい――と、スパガンヤーさんは言う。
「子どもは、延長保育で18時まで預かってもらっています。ときには残業で間に合いません。そんなときに、夫や家族、同僚などの周囲の助けがあるというのも、私がちゃんと働ける理由として大きいです」(同)
タイ人は仕事にかかわるスピードや責任感、同僚との付き合い方など、多くで日本人とは随分と異なるスタンスを取る。スパガンヤーさんの話を聞いて、遠慮や気遣いといった日本人の美徳もまた、女性の社会進出を阻んでいるのではないかと感じた。
例えば育児休業をフルに取得しようとすると、周囲に負荷がかかるのは、タイも日本も同じだ。ただ、日本だと、内心よく思っていない人もいるという。タイは、いい意味でも悪い意味でも、従業員間の距離が近い。まるで友人同士が一緒に働いているようなもの。距離が近いゆえに人間関係のトラブルも少なくない代わり、友情が前提にあるため、友達のためにと進んで仕事を手伝ってくれるし、休業申請を出しても、嫌みのひとつも出てこない。
「私も数年前に産休をいただきましたが、同僚が困らないよう資料を作ったり、自宅のカレンダーにスケジュールを記入し、重要な案件は事前に電話をして指示を出したりしましたよ。一方で同僚も、大変だからと私をサポートしてくれました」(同)
このように、仲間意識が強いこともまた、女性が働きやすい環境になる。
「タイ人男性も、女性に任せておけば問題ないと、よく言っています。ミャンマーやラオス、カンボジア、ベトナムも女性のほうが働くといわれていますが、実際は男性がちゃんと働いています。タイだけが、圧倒的に女性が多い。タイ人女性は強く、自分でちゃんと生きていますよ」
と、小田原氏は言う。タイは不動産投資もブームで、バンコクを中心に、コンドミニアム(マンション)や商業施設の建築ラッシュになっている。そんな工事現場という肉体労働の世界にも女性がいる。社会全体が「男だから」「女だから」といったことを一切考慮していない、ともすれば支援がないということもまた、女性の社会進出を後押ししているのかもしれない。
(髙田胤臣)