年上女が若い女に“友情”を強いるとき――『あるスキャンダルの覚え書き』、女友達への欲望
◎執着する年上女と中途半端な年下女
バーバラがてこでも動かない岩山だとすると、シーバはその上空を漂う雲のように頼りない。何もかも正反対の2人のそれぞれの担当科目も、性格の違いを皮肉っぽく表している。
バーバラが毎日日記をつけるのは、いかにも事実の記述で成り立つ歴史の教師らしい振る舞いだ。ただ、歴史にも記述者のバイアスがかかるように、彼女の日記は、現実を自身の分厚い妄想でくるんだものである。
一方、感覚を重んじるアートに親しんできただけあって、シーバは分析的な判断よりその時々の直感で動くタイプ。少女時代から自由でボヘミアン的な空気を満喫して成長した人特有の、どこかフワフワと夢見がちな面が見える。中流のお嬢さんで、既婚者だったかなり年上の男と不倫の末に結婚したシーバ。子どもを2人もうけるも、弟の方はダウン症で、やっと学校に入学したのをきっかけに仕事に戻ったが、教職には自信が持てず、アーティストとして立つ意欲もなく、30歳を過ぎても自分の軸が定まらない。優しい夫と仲は良いものの、熱愛時代はとうに過ぎている。
妻と母の役割に縛られて柄にもなく優等生を演じてきた彼女は、無意識のうちに、その枠から逃走するきっかけを待っていたのだろう。首筋の金髪をいじるのが癖の、美人だがどこかもろさを感じさせるシーバには、性への好奇心ではちきれそうな少年を引き寄せる隙が見える。
かなり歳が離れているとは言え、教師と生徒の恋愛はありがちな話だ。だが彼女の最大の問題は、全てにおいて中途半端な点にあった。
欲望のままに開き直るわけでもなく、遊びと割り切ることもできず、不安と罪悪感を覚えつつ、いつまでも優柔不断に揺れ続ける。しおらしさを装って相手の同情を買った上でセックスにこぎ着け、自分の欲しいものだけもぎ取ろうとする15歳の少年の方が、よほど上手(うわて)に見える。
中途半端に真面目で中途半端にだらしなく、中途半端に優しく中途半端に自分に甘い三十路女が、欲望に負けてずるずると流されていく姿はリアルだ。そして、こういう女性が生徒だけでなく、バーバラのような執着型の女性の標的になったのも、ある意味仕方がなかったのではないかと思えてくる。