キャバレーからキャバクラへ、夜の女たちはこう変わった! 裏方が語る、時代の変化
いまや「女子高生のなりたい職業」の上位に入るほど、世間に定着しているキャバクラ嬢という職業。そもそも「キャバクラ」という業態は1980年代半ばに誕生したといわれているが、その営業には酒、おしぼりなどの雑貨を扱う業者、美容師など、裏側を支えるさまざまな外部の人々が関わっている。その中のひとり、各店舗に行き、キャバ嬢にドレスやスーツを販売する「外商」を営むM氏は、40年にわたり女性たちの移り変わりを見てきた。彼が接したキャバ嬢たちは、どのように変化したのか? その変遷を語ってくれた。
■キャバレーで働く目的は金
「私がこの仕事を始めた70年代の頃は“キャバクラ”ではなく“キャバレー”でしたけどね。日本の景気がぐんぐん良くなって、ハリウッドグループ(50年代に創業した老舗キャバレーグループ)とかの大箱のキャバレーは、1000人近い女の子が働いていました」
70年代といえば60年代の証券不況から経済が復活し、安定して成長した時代だ。日本全体が活気に満ち、それはキャバ嬢たちも例外ではなかったという。
「あの頃キャバレーで働いていた女の子たちの目的は、ひと言でいえば金です。当時は大学卒の初任給が15万円ほどでしたが、キャバレーで働けば駆け出しの子でも同じくらい稼いでいました。売れっ子になればそれの数倍、そのほかに客からのチップもあるから、大学を出て企業に就職するよりはるかに稼げたんです。稼ぎたいからやる気もある、頑張ればそれに見合うだけの収入がある、それに、キャバレーに来て金を落とすのは金が有り余って困っている大企業の重役やエリートが多かったから、羽振りもいいし話も面白い。昔の夜の商売というと、ワケアリな女が働いていたと思っている人も多いみたいですが、みんな明るかったし、活気がありましたよ」
そして時代は安定成長期からバブル期に入り、景気は活性化する。それに比例して夜の商売も活況を呈し、数百人単位の大箱のキャバレーも連日満員、客が順番待ちする日が続いた。
「店の景気がいいと、当然私らの売り上げも良くなります。その頃女の子によく言われていたのは、“ほかの子には出してない一番いい商品を出して”です。値段なんて見ませんよ。私はドレスを販売していましたが、飛ぶように売れました。おかげで私も当時は外車に乗って、札束をポケットに入れて遊びにいけましたからね(笑)。でも、景気がいいのは私みたいな外部の人間だけじゃなくて、店も、客も、働く女の子たちもみんな元気だった。女の子たちは本当にバイタリティがあってね、店が終わった後はお客を自分がサブで働いているスナックに連れていったりするんです。稼ぎたいのはもちろんだけど、そうやって客と関わるのが楽しかったんでしょうね」
女の子たちの中には、パトロンを見つけて自分で店を持った子もいるという。しかし、バブルの崩壊とともに、維持費がかかる大箱のキャバレーが姿を消していき、店の規模が小さいキャバクラが増えた。働く女の子たちもその影響を受けていく。
「バブル崩壊を機に夜の商売に見切りをつけて足を洗った子もたくさんいますが、キャバレーに残る子、キャバクラに流れる子も多かった。私の同業者も、商売替えする奴もいましたが、売り上げが一気に落ちたせいで借金をし、首をくくった奴もいます。メーカーもいくつもつぶれましたからね」
■女の子の元気がなくなった
夜の世界は変わっても、稼ぎたくて夜の商売に足を踏み入れる女の子たちはいる。バブル崩壊後、M氏は商売相手をキャバクラメインにシフトして外商を続けていたが、女の子たちの様子が大きく変わっていったと当時を振り返る。
「何が変わったか、ひと言でいえばやる気ですかね。親の借金を返すためにキャバ嬢になったとか、それこそ“ワケあり”な女の子も増えたし、女の子の元気がなくなったのは肌で感じていました」
さらに時が流れ、2000年代に入るとカリスマキャバ嬢がメディアに登場し、キャバ嬢という仕事の暗いイメージはどんどん払拭されていった。アルバイト感覚でキャバクラに入店する女の子も増え、雰囲気は明るくなっていったというが……。
「中には根っからこの仕事を楽しんでいる“天才”もいますけどね(笑)。しかし、そんな子よりも、朝起きれない、昼間の仕事はだるいとかいう理由で、惰性でキャバ嬢を続けている子も多いんです。ブランドのバッグを買いたい、いい生活がしたいという願望は昔のキャバレーの女の子も変わりませんが、なんというのかな、仕事への情熱とか、客への情がないんですよ。昔は携帯やSNSなんて便利なものはなかったけど、今よりキャバ嬢と客の人間関係が濃かった気がします。昔を知る人間としては、少し寂しいですよね」
かつてのキャバレー全盛期を知らない若い層にしてみれば、現在のキャバクラでの接客やキャバ嬢との接し方がスタンダードだ。しかし、月並みな言い方ではあるが、M氏のように“古き良き時代”を知る人たちにとって、キャバ嬢たちのこうした変化は切ないものなのかもしれない。