『せいせいするほど、愛してる』に見る、少女マンガで「恋愛と仕事」を両立する難しさ
そしてそれ以上に、不可解なのが未亜の仕事ぶりである。2人の不倫がバレたことで、結局未亜は会社に「辞表」を出すのだが……、えっ、ちょっと待って。「辞表」というのは、役職のある立場の人が書くもので、一般社員は「退職願」か「退職届」である。そんな大事なものを書くときくらいは、ちゃんと調べてからにしようよ。ネットで調べれば、すぐに書き方や辞表と退職願の違いについて出てくるはずだから!
そう、この未亜、プレゼン資料を持たずに出張へ行ったり、コスメの先行発売日を連絡し忘れて売り場をガラガラにするなど、とにかく色ボケしてミスはするわ常識はないわのオンパレード。まあ、あんまり仕事のできる感じじゃない。基本的に、未亜の脳みそは、仕事よりも色恋でピンク一色なのである。
余談だが、この先行発売日のくだり、ドラマでも再現されていた。ドラマの舞台はコスメ会社ロワールではなく、ティファニーになっているのだが、新作の発売日、店に客が来ないからといって、未亜は街でチラシ配りをするのである。しかも自作のチラシ。「いらっしゃいませ~、いかがですかぁ~」って、どんだけ安い会社なの、ティファニー!! 街でチラシをもらったからって、「マジ? ちょっと買っちゃおうか?」って値段じゃないでしょう、ティファニー!!
基本的に、少女マンガの世界では、仕事と恋愛・結婚の両立が難しい。だから仕事に話の重点を置くと、恋愛はうまく描きにくいのだ。仕事に時間と精力を持って行かれたら、男の相手なんかしてる余裕はないし。仕事の描写がリアルな『リアル・クローズ』(集英社)や『働きマン』(講談社)などの女性主人公は、なんの保障もない男たちとの付き合いよりも、自分を前進させてくれる仕事を選んでいる。
一方で、社会人の主人公が恋愛に重きを置くと、どうしても仕事の描写がおろそかになる。年下の彼とエッチするたびに仕事を休む『きょうは会社休みます。』(集英社)もそうだし、まさしくこの『せいせいするほど、愛してる』もそう。たいていの場合、主人公はなんの仕事をしているかよくわらかないとか、キャリアアップでもなんでもない理由で「辞表」を出したりするのである。
少女マンガが、女の夢や妄想の詰まった玉手箱なのはいいけど、仕事は真面目にやりましょうよ、ねえ?
ちなみに、ドラマで話題のタッキーのエアギター。原作にはそんなシーンも匂いもカケラもないのだが、あれは一体何を狙っているのかな……?
■メイ作判定
名作:迷作=1:9
和久井香菜子(わくい・かなこ)
少女漫画マイスター、文筆家。『少女マンガで読み解く 乙女心のツボ』(カンゼン)が好評発売中。ネットゲーム『養殖中華屋さん』の企画をはじめ、語学テキストやテニス雑誌、ビジネス本まで幅広いジャンルで書き散らす。