「忍者部屋やキッチン完備」「海外旅行者の観光地化」――日本の性愛空間“ラブホテル”はいま
こうした、ラブホテルへのこだわりを持つのは誰なのか? 利用するカップルが部屋を選ぶ上で、選定の主導権を持つのは男女どちらが多いのかを聞いたところ、
「『ハッピー・ホテル』のメインの利用者である20~30代の男女比は、だいたい6:4です。年齢層が高くなると男性の比率が上がります。少々男性の方が多いですが、だいたい半々くらいといった印象ですね。ただ、最近は女性の方がこだわりを持ってホテルを選ぶ傾向にありますので、口コミを投稿する方も女性が多いです」(同)
と、現在のラブホテルは、より女性が楽しむ場になっていることがわかった。
■女子会、1人客、海外旅行者向けに発展
利用者の“目的”も昔とは少々異なってきている。冒頭でも少し触れた通り、以前は「セックスをするための場」であったラブホテルが、現在ではそれ以外の利用者にも開放されていることも少なくない。
「ホテルのポリシーによりますけれど、仮眠を取るためなど、ビジネスマンの1人利用を受け入れているところもあります。カップルのみ、1人でも、複数人でも、と、臨機応変に受け入れているホテルは多いです」(同)
また、特に最近目立つのが「女子会会場とてしてのラブホ利用」である。「ハッピー・ホテル」では、ラブホテル予約システムを導入しているが、ホテル側の予約プランの中に、シャンパンやスウィーツのサービス、コスプレ無料など、女子目線を意識したプランを多く見かけるという。
「テレビも大きいし、防音設備もきちんとしていますから、大勢でDVDを見ながら夜通し騒ぐ、なんていう女子会で使用する方も多いようですよ」(同)
ホテルがリニューアルをする際には「必ず一部屋は『パーティールーム』を作る傾向にある」(同)といい、まさに現代の多様的なラブホテル事情を象徴しているように感じる。
さらにラブホテルは、外国人観光客もターゲットにしているという。観光客増加の中、首都圏では、シティホテルやビジネスホテルの予約が取りにくくなっているため、旅館業法で営業している年齢制限のないラブホテルが、積極的に客を呼び込もうとしているそうだ。大阪ではバックパッカー、東京では歌舞伎町や浅草などのホテルで個人旅行の外国人の使用が目立つといい、「ハッピー・ホテル」では、そんな外国人観光客に向けたサイト「Love inn Japan」を立ち上げ、来年から外国人向けのラブホテル予約も開始するそうだ。
海外では、「日本に行ったらやるべき10のこと」の中に「ラブホテルに行きましょう」と紹介されたという例もあるように、モーテルしか存在しない外国客にとっては、広々とした風呂やベッド、アメニティが充実しているラブホテルは稀有な存在のようだ。もはや「ラブホテル」は日本独自の文化といってもいいのかもしれない。
■ラブホテルは日本独自の文化へ
このように、利用方法の間口を広げているラブホテル。「飲んで終電を逃した時に女性2人で泊まるという利用方法も増えてきているようです。それだけ気軽に利用しやすくなったということでしょうね。今では入り口も意外とオープンで、気軽に入れるホテルが多いです」(同)というが、では現在、利用者にとってラブホテルは、どのような場所として捉えられているのだろうか?
「やはり『レジャー』という言葉が一番しっくりくる気がします。昔は『愛を育む』という場という意味で『ラブホテル』と言われていましたが、利用方法が多種多様化して、いろいろな方が使えるということで、今は『レジャーホテル』の名がぴったり来るのではないでしょうか。レジャーホテルというのは『そこへ行くだけで楽しい場所』という意味合いもあると思います。一人暮らしの部屋では、ユニットバスに小さなベッドだけれど、レジャーホテルはお風呂も広いしベッドも広いし、それも楽しさを得られるポイントかもしれません。また、最新の美顔器をレンタルできたり、充実したアメニティの中から好きな入浴剤やシャンプーを持っていけたりというサービスを行うホテルも多いですので、そこもシティホテルやビジネスホテルとは違いますね」(同)
ひっそりとした閉鎖的な空間だったラブホテルが、現在はオープンな場になりつつある。“日本独自の文化”ともなり、今後も日本人ならではの斬新なアイデアと多様化するニーズに応えながら、レジャーホテルとしてさらに進化していくのではないだろうか。しかしその一方で、逆にセックス目的のカップルが入ることを躊躇する場面も出てきてしまいそうだ。現代の男女にとってのセックス空間は、どこへ行ってしまったのだろうか?
(取材・文=いしいのりえ)
■取材協力:株式会社アルメックス「ハッピー・ホテル」