サイゾーウーマンカルチャー大人のぺいじ官能小説レビュー不倫されたセックスレス妻の切実さ カルチャー [官能小説レビュー] 夫の不倫相手は「太った醜いおばさん」――『アンバランス』に描かれる、セックスレス妻の切実さ 2016/07/18 19:00 官能小説レビュー 『アンバランス』(文藝春秋) 恋人から夫婦へ、そして家族になる上で、“セックス”という行為は非常に位置づけが難しくる。セックスをする理由は、立ち位置によってさまざまに変化し、例えば恋人同士のセックスは「愛情を確かめる行為」、また夫婦間でのセックスは「子どもを作る行為」などと考えられるが、ただ、突き詰めると人としてするセックスは「性欲を解消するための行為」なのだ。 それでも、セックスをするためには、何かしら理由をつけなければならないと考えてしまう……そんなとき、私たちは、なぜこうもセックスに翻弄されるのだろうか? と感じるのだ。 今回ご紹介する『アンバランス』(文藝春秋)の主人公である日奈子は、36歳の平凡な専業主婦である。契約社員として働いていた頃に知り合った年上の夫・ユキは、代理店に勤務している。どこから見ても一般的な夫婦だが、彼らには、ほかの夫婦とは明らかに異なる点があった。それは、交際当時から今まで、2回しかセックスをしたことがないという点。ユキは性的不能者だったのだ。 そんなある日、日奈子の自宅にある女性が訪れる。でっぷりと太った醜い容姿のその女性は、ユキと不倫をしていると言い放ち、証拠写真を数枚渡して部屋を後にした。その夜帰宅したユキは、女性が自宅に訪れたことを日奈子から聞くと、土下座をして今までの「不能」の理由を明らかにした。幼い頃、近所のおばさんと交わったトラウマから、醜いおばさん以外では勃たなくなってしまったというのだ。 これまでに日奈子としたのはたった2回だが、不倫相手とは10数回もしたと明かし、「セックスがしたかっただけだ」と事務的に言い放つユキ。彼がホテル暮らしをするため、家を出て行ってしまってから、日奈子は眠れなくなり、1人鬱積した日々を過ごす。 日奈子は何となく受け入れていた“セックスレス”という状態と対峙する。挿入もなく互いに触れ合い、愛撫するという、日奈子たち夫婦の“セックス”と、挿入する夫と不倫相手の“セックス”。その事実と向き合った日奈子は、強烈に挿入する“セックス”を求めるようになった。そして、とある出張ホストのサイトを見つけ、1人の男と待ち合わせることになるのだが――。 人間の三大欲求である性欲は、食欲や睡眠欲とは異なり、放っておいても“どうにかなる”欲求である。食べなければ生きていけないし、眠らなければ体に支障をきたすが、別にセックスをしなくても普通に暮らしていけるものだ。 しかし人によっては、セックスレスで、心が磨り減ってしまうこともあるだろう。女には、男の体を体内に“受け入れる”ことによって、心も体も“満たされる”と感じる人が多いのだ。自分の中に溜めているものを“放出する”ことで解消される男の性欲とは真逆のこの感覚は、女にしか理解できないかもしれない。 ところで、日奈子とユキの間では、ないものとされていた“セックス”を、太った醜いおばさんがいとも簡単にやっていたと知ったときの日奈子の気持ちを想像すると、それは言葉では説明つかないほどの醜くドロドロとした感情だったと思う。 そんな感情を持て余しながらも、物語の終盤、日奈子が真っ直ぐにユキとのセックスを求める姿は、読んでいて胸が締め付けられる。夫とセックスがしたい。日奈子の叫びは非常にシンプルであり、なおかつ女性の誰もが共感できる言葉ではないだろうか。 (いしいのりえ) 最終更新:2016/07/18 19:00 Amazon 『アンバランス』 「放っておいてもどうにかなる」から性欲は超厄介 関連記事 結婚15年目のW不倫発覚――それでも「愛してる?」と夫に問う妻に“安心感”を得るワケ不倫を“された側”は、かわいそうな存在なのか? 夫の不貞を許し続ける妻の心理処女を捧げた男への憎悪の物語――『マサヒコを思い出せない』が教える、女の試練の乗り越え方“不倫する女”を猛バッシングする女の心理から読み解く、『不機嫌な果実』が長年愛されるワケ官能小説として読む“阿部定事件”――「オチンコを憎んでいる」女の性愛を考える 次の記事 「VERY」に見る“自分へのご褒美”観 >