『99.9』は嵐・松本潤の飛躍となるか? 少女マンガを脱した“新しい主人公”像の是非
TBS系の日曜劇場(日曜午後9時枠)で放送されている『99.9-刑事専門弁護士-』(TBS系、以下『99.9』)が好調だ。平均視聴率は第1話が15.5%(関東地区、ビデオリサーチ調べ/以下同)、第2話では19.1%を獲得。それ以降も高い数字を獲得しており、今期の連続ドラマの中ではダントツとなっている。
本作は、嵐の松本潤が演じる弁護士・深山大翔が主人公の法廷ドラマ。タイトルの『99.9』とは、刑事事件の裁判における有罪率のことだ。しかし深山は、仮に99.9%有罪だったとしても、0.1%の無罪の可能性にこだわって事実を検証していく。
こう書くと正義感の強い熱血弁護士のようだが、ドラマを見ている時の印象は大きく異なる。第1話で深山は「僕にとっては依頼人の利益よりも、事実を明らかにすることが大事なんです。事実を知ることが弁護です」と楽しそうに語る。結果的に深山の探求心は依頼人の利益につながり、裁判に毎回勝利するが、彼自身は依頼人の心情にはあまり興味がなくて、まるで裁判をゲームのように楽しんでいるかの印象を受ける。
実際、やっていることは、事件現場の監視カメラの映像などを取り寄せて、犯罪が可能だったかどうかをとことん検証するといったもので、被告人となった依頼人の気持ちに寄り添って心配する場面は、ほとんど描かれない。
もちろん、父親が冤罪の汚名を被せられたまま命を落としたという暗い過去を深山が抱えていることが小出しにされるため、自分と同じような“被害者”を出したくないという思いが奥底にあるのかもしれない。しかし、そういった感情は台詞では出てこない。せいぜい、表情で匂わされるぐらいだ。その意味で本作最大の謎は、深山の内面そのものだといえる。
◎細かい小ネタとストーリーの問題点
出世作となった『花より男子』(同)から近作の『失恋ショコラティエ』(フジテレビ系)まで、松本は少女漫画原作のテレビドラマに出演することでキャリアを積んできた。少女漫画の特徴は登場人物の心の声が饒舌に語られることで、それは少女漫画原作のドラマでも同様である。そのため、松本の演じる役は、繊細な内面を台詞や表情で表現することが多く、『失恋ショコラティエ』に至ってはナレーションで心の声が饒舌に語られていた。
対して『99.9』では、主人公が何を考えているのかまったくわからない存在となっており、まるで、目の前にある事件をひたすら立証していくマシーンのようだ。
正義やモラルよりも、「事件の謎を解くこと」や「自分が強くなること」といった自分の中の欲求を第一と考える主人公像は『ドラゴンボール』(集英社)の孫悟空のような、ひたすら自分の欲求に忠実な少年漫画の主人公のようである。深山のシンプルな行動原理は物語にも現れていて、少年漫画のように見やすいのが人気の秘訣となっている。
しかし、確かにドラマとしては見やすいが、法廷ミステリーとしてはイマイチ食い足りない。最大の見どころである法廷での議論を交わすシーンが少ないため、事件の謎を解くこと自体にカタルシスがないのだ。だからいつも終わり方があっけなく感じる。
むしろ印象に残るのは、各登場人物の細かい設定と小ネタだ。