「デカくて固くて長持ち」の男なんて迷惑! ピンク映画の巨匠が描く女性主体の性
■若者の性意識と人間関係の構築
『百合祭』のDVD
――性教育についてはどうお考えですか?
浜野 セックスは一番小さな男女共同参画だと言いましたけど、その意味をセックスし始める年齢の子どもたちに最初に教えていかないとダメだと思います。
私は10代の女子たちに「いきなり男とセックスするのではなく、最初はきちんと自分の体を知ること、自分の体のどこをどうしたら気持ちがいいのか、セックスする前に知りなさい」と言っています。自分の体の快感を知らなければ、男の一方的なセックスを受け入れるだけになってしまう。オナニーは悪いことじゃない、女性向けのバイブだって売っているし、女同士で触り合うのもいいよ、と伝えています。
大体、男の意識だって変えなくちゃいけないんです。「デカくて、固くて、長持ち」がいいと思い込んでいる。そんなのは、女からしたら迷惑千万ですよ(笑)。でも、大半の男はそう信じています。男にとってもそういう間違った刷り込みがコンプレックスの元になっているんです。
――若者のセックス離れも話題になっていますね。
浜野 確かにそれはあると思います。今、若い人たちは片時もスマホを手放さないじゃないですか。あんなふうにゲームなんかにのめり込んでしまうと、生身が苦手というか、現実世界での関係性を構築していく力が失われていく気がします。人との距離の取り方や、人との関係性、そういうものが面倒になっているのかなと思います。
私が助監督時代に監督から「飯、食いに行くか?」なんて誘われたら、もう喜んでついていって、必死にコミュニケーションを取ったものです。それが今は、若いスタッフに「ご飯、食べに行く?」って誘っても「それもギャラのうちですか」なんて返されちゃう。仕事のやりかたでも、かつては小道具1つ探すにしても足で探したし、小道具屋のおじさんと仲良くなっておまけしてもらったりしたけど、今はパソコン1台あれば人と顔を合わせなくても何でもできる。本来はそこで次につながる人間関係をつくらなくちゃいけないのに、それが構築できない。仕事もセックスもバーチャルな方が楽なのかもしれないですね。
■日本の女性の性意識をガラッと変えたのはAV
――AVに関しては、無理やりアダルトビデオに出演させられた女性の人権を訴える人権団体と、それに反論するAV女優たちのニュースが話題になりました。
浜野 騙されてひどい目にあったということであれば、それは犯罪なのだから、警察に行くべきです。人権団体の人たちは警察が介入すれば被害者の名前が出て、二次被害、三次被害になることを避けようとしているんでしょうけど、それぞれ個別の問題をAV業界全体の問題のようにしてしまっているところがおかしいと思います。
AV業界には、女優はもちろんですが、ヘアメイクや助監督、撮影や照明の技術パートにも女性はいますし、配給会社ではプロデューサーや宣伝等、多くの女性たちが働いています。AVすべてに問題があるという捉え方はそこで働いている女性たちの人権侵害にもなりかねませんよね。私のピンク映画にもAV女優さんたちに出演してもらっていますけど、「事務所に守られているから、私は安心してAVに出られる」と言っている女優は山ほどいますよ。
かつて1980年代にAVに淫乱ブームというのが起こって、豊丸(80年代に活躍したAV女優)たちが出てきて、それまでの日本のセックス観、つまり、女は突っ込めば感じる、女の体は男の所有物、というような男の思い込みを全部ぶち壊したんです。80年代に出現したAV女優たちは、「私の体は、私のもの。私が、セックスしたいんだ」とそれまでフタをされてきた女の欲望を旗印に、軽々と性のハードルを越えて来たんです。それは、日本の女性の性意識をガラッと変えることでもあったんですね。
自分の意志で性の場に殴りこんできた女性たち、私は彼女たちに本当に感謝しています。そういう女たちはAVを卒業した後もきちんと生きていますよ。AVに出演したことを後悔などせずに、私はあの時ああいうふうに生きたんだって、自分の中できちんと生き方を成立させているんです。
(田村はるか)
浜野佐知(はまの・さち)
1948年生まれ。映画製作会社「株式会社旦々舎」代表取締役。男性中心であった映画界において初めて女性監督という立場を確立させた。監督・プロデューサーを兼任し、「性」を女性側からの視点で描くことをテーマに400本を越える作品を発表する。
・性と健康を考える女性専門家の会総会シンポジウム
「性の健康の視点で考えるポルノ -資源としての女性・主体としての女性-」で講演
日時:2016年6月5日(日)13:30~16:35
場所:東京薬科大学千代田サテライトキャンパス(飯田橋)