レンタルできる“彼氏”と“執事”が見た、女の「しんどさ」と「欲望」の形
■ベッドに手を引かれて誘われた
――執事は高齢男性でも、「じいや」というカテゴリーで需要がありそうですね。利用する女性の年齢層や、パートナーの有無はどうですか?
桜井 一番多いのが、20代後半~40代前半までで、それぞれパートナーの有無は同じくらいです。逆に20代前半と40代後半以上は少ないですね。彼氏がいる方も、既婚の方もいます。なので最初に、「なぜ彼氏をレンタルしたいのか」は、しっかりと聞いています。男性とただ楽しい時間を過ごしたいという人もいれば、男性に切実に悩みを聞いてほしいという人もいるので。彼氏がいない女性で、「男性と話すことに慣れていないので練習したい」という方もいます。そういう女性が、会うたびにたくさん話せるようになったり、性格が変わっていったりして、成長を感じることもあります。
須賀 うちの利用は、30代の主婦層が多いですね。昼間の午後1時~3時くらいの間に、洗濯物、料理、掃除を頼みたいという方。自分は料理が得意なので、料理をよくします。ただ執事という立場上、関係としては一線を引くので、彼氏さんよりも気軽に要望を話すといった空気になりづらい点はあります。いかに自然にお嬢様の要望を聞き出せるかということがキャストの腕の見せどころになってきますね。
――彼氏の場合は、デートをしていたら、本当に好きになる可能性が高いと思います。桜井さんは、本当にキャストさんのことを好きになってしまったお客さんや、性的なことを求めてくるお客さんへの対応はどうされていますか?
桜井 「好きです」という気持ちの告白については、素直に「ありがとうございます」と返しますけど、告白をした先の要求については、お断りをせざるを得ませんよね。体を求めてくる女性もゼロではないです。その時には「規約があるので」と業務上の理由でやんわりとお断りをして、それでも引いてくれない場合には、僕個人の言葉を伝えています。「ダメだとお伝えしているのに理解してくれなくて、今すごく嫌な気持ちがしています」と。ただ、会社側には、個人と個人の付き合いになることを禁止はされていません。もちろん規約はありますけど、誠実に相手のことを好きになった場合どうするかは、個人の良識に任せられている部分が大きいです。
――執事も同様でしょうか?
須賀 もちろん暗黙の了解で、性的なものはNGです。以前に一度だけ、ディナーをした帰りに自宅に行った際、帰るなりすぐお嬢様がベッドに入ったんですが、僕の手をベッドの方にグッと引かれて。「こちらはそういうサービスをしていないので」とお断りしたんですけども「一緒にいたい」と言われたので、「お嬢様が眠られるまで、ベッドの脇にいます」ということで事なきを得ました。執事は職業という設定でいられるので、「私は執事の立場ですから」と断りやすいです。そこは彼氏さんとの大きな違いだと思います。
■女性が求めるのは「設定」でも「恋愛」でもない
――パートナーの有無にかかわらず、利用する女性は何を一番求めているのでしょうか?やはり格好良い男子との疑似恋愛、疑似お嬢様体験だと思いますか?
桜井 一人ひとりで求めていることはバラバラなので「女性はこういうものだ」とパターン化できないのですが、やっぱり内面的な部分が強いですね。優しくされたい、愛情が欲しい、女性として見られたい。最初は「彼氏になってみてほしい、デートをしてみたい」という入り口で入るんですけど、実際に求めていることは、彼氏じゃなくてもかなう要望だったりするんです。
このサービスは「彼氏って、こういうことするよね」という設定を提供しているように思われますが、女性は設定が欲しいわけではない。例えば、セックスを求めていると言っていても、実は望んでいるのは快楽ではなく別の何か、安心感だったり承認欲求を満たすことだったりする。“それ”を見つけて与えられた時にやりがいを感じます。
須賀 執事も同じですね。皿洗いをするだけ、荷物を運ぶだけだったら、家政婦さんを雇ったり女友達にお願いしたりした方が、技術的にも上手だし金銭的にも安く抑えられる。それでもある程度の金額を支払ってレンタル執事にお願いするということは、深層的なところに価値を置いている女性が多いんだと思います。男性執事が近くで家事をやることで、異性とのドキドキ感や女性として忘れていたものを思い出す感覚に浸ってもらえているのではないかと。そういう時に「旦那が忙しくて……」といった夫婦関係の悩みがポロッと出てくることもあります。本当は、ただ家事をしてもらいたいのではなく、その悩みを聞いてもらいたかったのではないかなと思う瞬間もあるんです。
桜井 共通しているのは、“うれしい”や“楽しい”という気持ち以上に、彼女たちの中では、精神的な安心感や女性として認めてもらえることの方が、価値は高いということですよね。デートの帰り際に「今日はありがとうね」と軽くハグした時、ギュッと“魂”で返してくる女性がいます。そういう時、彼女たちが社会や家庭の中で、いかに自分を律して生きているのかということを、理屈ではなく体感するんです。「自分を認められること」って、何にも代えがたいからこそ、このサービスに意味があるんだと思います。逆を言えば、女性にとっての心の拠りどころや日々の活力を生み出せる場所が、それほどないということなんですけれども。
――そういう拠りどころに、本当のパートナーがなれれば一番よいはずですが、パートナーがいても多くの女性がサービスを利用するのはなぜでしょう?
桜井 おそらくですが、愛情のコミュニケーションを知らないで、ここまで来ちゃったんじゃないかなと思います。パートナーはいるんだけれども、その愛情をもらえていなかったり、実はその愛情を自分が望んでいることに気付いていなかったり。サービスを利用することによって、自分が本当に望んでいるものがわかるんだと思います。僕らとしては、ここで愛情表現や自分の気持ちの伝え方に自信をつけて、日常に帰ってもらうことがベストなんですよ。日常をより良くするため、女性の精神的な自立を促進するという意味合いが強いですね。