「異性の服装と振る舞いを何十年も続けなければいけない違和感」性同一性障害の当事者が語る本音
生まれたときの体の性と心の性が一致しない「性同一性障害」。全国に約4万6,000人いるとされているが、性的マイノリティに位置づけられている当事者たちは、性別に対する違和感だけではなく、カミングアウトの不安など、さまざまな苦悩を抱えている。実際のところ、それぞれのライフステージにおいて、どのような壁を感じ、葛藤してきたのだろう?
そこで、今年のGID学会(Gender Identity Disorder=性同一性障害の略)の研究大会に合わせて、NPO法人性同一性障害支援機構が開催した「GID全国交流会」に参加。当日、筆者の取材に応じてくれた当事者たちの本音の一部を紹介したい。
■学校でも、いじめの対象になりやすい
北海道から九州まで、同じ悩みを抱える当事者をはじめ、友人や同僚など、全国から100名以上が参加し、賑わいをみせた。LGBT(セクシュアル・マイノリティ)のための団体「レインボー金沢」のスタッフを務める梓さんは、MTF(体の性別は男性で心〔自認〕の性別は女性)として生きているが、職場では、ごく一部の人以外にはカミングアウトをしていない。
「長年、中性から女性寄りの外見で生活していますが、リスクやデメリットを考えると、なかなか職場ではカミングアウトに踏み切れない……というのが率直なところです。同じ地域に暮らすLGBTの中には、うわさが広まったり、偏見や好奇の目を懸念したりしてカミングアウトできないという人が多くいます。人口が多い東京と比べると、地方では、まだまだそうした風潮が強くあると思います。友人は選べますけど、問題は学校と職場ですよね。周囲からハラスメントを受けて職場や学校に居づらくなって辞めてしまうとか、のけ者にされて引きこもりになり、最悪の場合は自殺する人もいるくらいなので、カミングアウトに抵抗があることは、何ら不思議ではありません。そうした中で、私の地元で実施している『レインボー金沢』の交流会などの場があれば、当事者がお互い安心して話ができる貴重な機会を得られると思います」(梓さん)
梓さん自身、過去に医療機関を受診した際、医師にホルモン治療をしていることを伝えたところ、カルテに「趣味でホルモンをやっている」と書かれたことがあるという。患者を守るべき存在の医療従事者ですら、性同一性障害に対する理解が不足していることも少なくないようだ。
「学校でもいじめの対象になりやすく、攻撃の対象になるケースも多いです。なかには、服を脱がされて写真を撮られるといった深刻な被害に遭う子どももいるようです。自分の性自認や性的指向は、本人が選べるようなものではありません。性的少数者を差別してはいけないと国や自治体がはっきり法制化し、相談や支援の仕組みを全国的に作って、誰もが生き生きと暮らしていけるように啓発していく必要があると思います。そうした社会を目指して、性自認や性的指向により困難を抱えている当事者に対する法整備のために活動をしている『LGBT法連合会』にも加わって、多くの人と一緒に活動しています」(同)
■あらゆる性自認の人たちに対応する仕組みに、世の中が変わってほしい
また、梓さんは男性から女性への性別適合手術を受けていないため、戸籍上は男性のままだが、恋愛対象とする性別、いわゆる性的指向は女性。つまり戸籍変更をして男性から女性になったとしても、現状はパートナーとして女性と結婚することはできない。
「戸籍変更をしなければ結婚できるのですが、戸籍変更を取るか結婚を取るか、どちらか選びなさいということになってしまいます。それは究極の選択すぎます。異性愛で性別に違和感がない人にとっては当たり前にできることができないというのは、不平等だなと思います。そうした『どっちかにしないといけない』風潮は、例えば書類の性別欄で『男』『女』どちらかに丸をしなければならない――というように、あらゆるところに根付いていると思います。あらゆる性自認の人たちに柔軟に対応するよう、世の中の仕組みが変わっていってほしいと思います」(同)
性同一性障害であるかないかにかかわらず、世の中のあらゆる選択肢は、極めて限られたものしか用意されていないといえるかもしれない。そして、多数派の常識が少数派の生きづらさの原因にもなり得ることを、心に留めておく必要があるだろう。