カルチャー
GID学会レポート1

性同一性障害は精神病だから、保険に入れない? LGBTがはじかれた法律の問題と社会の変化

2016/05/21 18:00

■渋谷区や世田谷区のパートナーシップは、初めの一歩

 続いて、同弁護士から、昨今議論が絶えない「同性婚」をめぐる状況が語られた。

「同性婚の場合は、『同性間における婚姻』を異性間における婚姻と同等のものとして認めるというもので、オランダを皮切りに各国で認められています。その次に、『同性間における事実婚の適用』があります。内縁関係を同性間に適用させるということですが、日本では事実婚が特別扱いされています。実質的には婚姻関係といえますが、社会保障上の優遇措置は正式に婚姻している夫婦と類似の保護を与えられるものの、相続権は与えられません」

 また、各国では異性間の婚姻と別の制度として、同性婚を位置づけているケースもあるようだ。

「『婚姻とは全く別の制度を創設する』という対応も考えられます。これは制度の設計の仕方によってさまざまありますが、例えばデンマークでは、婚姻と同等の条文を準用しており、婚姻とは別の制度ですが、実質的には婚姻と全然変わらないものを作り出している。婚姻規定の一部準用にとどまるドイツやスイス、また同性間における婚姻を『パートナーシップ契約』と名づけ、登記や登録をして対外的に公表したら、婚姻しているカップルと同等に扱わないといけないと法律上保証されているフランスなど、さまざまな制度があります」(同弁護士)

 では、現在の日本における「同性婚」の状況は、どうなっているのだろうか?

「パートナーシップ条例の適用を踏まえても、同性婚は認められていないと考えられます。しかし、渋谷区や世田谷区をはじめ、地方自治体の声が上がってきています。諸外国でも自治体が動き始めてから10~15年くらいたって、国の法制度に影響を与え、立法により解決されるというプロセスがよくあるケースです。それが、まさに日本で始まってきたのかなと思います」(同)

 また、渋谷区や世田谷区のパートナーシップについて、それぞれのスタンスには少し隔たりがあることも指摘された。

「パートナーシップ条例を作る際には、『パートナーシップ』を定義しないといけませんが、渋谷区の条例には『男女の婚姻関係と異ならない程度の実質を備える戸籍上の性別が同一である二者間の社会生活関係』とされています。一方で、世田谷区の『パートナーシップの宣誓の取扱いに関する要綱』には、『同性カップル』と明記しており、そのうえで、『互いをその人生のパートナーとして、生活を共にしている、又は共にすることを約した性を同じくする2人の者』と定義しており、渋谷区よりは踏み込んだ内容になっているのかなと思います。しかし、渋谷区は条例、世田谷区は要綱として位置づけており、条例はルールなので守らなくてはいけないものですが、要綱は条例とは異なり世田谷区のスタンスを対外的に公表するという意味にあたると考えられます」(同)

 法的効力においても渋谷区と世田谷区の差は歴然としており、渋谷区のパートナーシップ条例では区・区民・事業者による性的少数者への差別を禁止しており、同性カップルであることを理由に入居を断る仲介業者や大家がいた場合は、区による調査、指導、勧告及び名称公表等の対象となるため、抑止力としての効果があるとされる。一方、世田谷区の要綱には、そうした効力はない。

 GID当事者をはじめ、LGBT のライフサイクルにおける不利益の改善や、同性婚にまつわる議論は、他の先進国と比べて日本は遅れているのかもしれない。しかし、社会全般において性的マイノリティが抱える課題の認知は、かつてないほど広まっていることも確かである。当事者たちが変化の実感を確実なものとして得るためにも、そろそろ思い切った制度の変革を議論することが必要な時期に差し掛かっているのかもしれない。
(末吉陽子)

最終更新:2017/01/06 16:13
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