性同一性障害をカミングアウトする時 当事者と親が語る苦悩
LGBTの人たちにとって心理的に大きなハードルのひとつとされるのが、自身の性自認について周囲に公表すること、いわゆる「カミングアウト」である。周囲の理解が得られるかどうか、そして親に受け入れてもらえるかどうか。生まれた時代や環境などによってハードルの高さはさまざまだが、偏見や差別に対する不安が全くないという人は少数派だろう。とくに、出生時の体の性と心の性が異なる「性同一性障害」(GID)の人たちの場合は、性転換手術をはじめとする治療を望む人が多いことから、カミングアウトされる側の親も少なからず戸惑いがあるはずだ。
性同一性障害に関する研究を推進しているGID学会が、今年開催した第18回研究大会・総会では、NPO法人「LGBTの家族と友人をつなぐ会」が当事者団体として参加。FTM(身体的には女性であるが性自認が男性)の子どもを持つ6人の親が登壇し、子どものカミングアウトを家族がどのように受け止めたのかについて率直な想いが語られた。そのうちの2人と、FTM当事者である子どものエピソードを紹介したい。
■何か勘違いしているんじゃないか
8年前、久しぶりに帰省した娘から性同一性障害を突然カミングアウトされたAさん(女性)。それまで、性同一性障害という言葉自体を知らなかったことから、動揺を抑えることに必死だったという。
「食卓の団らんの場が、カミングアウトによって一瞬で硬直しました。まずもって、性同一性障害という言葉が私の気持ちに入ってこず、ただただ娘の言葉が目の前を通り過ぎていくという感じでした。娘は男の子っぽい雰囲気ではありましたが、私自身がボーイッシュな女の子だったので何の疑いも持っていませんでした。そのうち、子どもが小さい頃、女の子として生活していた時の記憶が蘇ってくるのですが、フリルのスカートが好きだったとか、ケーキの絵を描いていたことを思い出して、『きっと違うやっぱり女の子だ、何か勘違いしているんじゃないか』という思いが頭の中を駆け巡りました」
しかし、母親として娘の味方でいるべきと考えたAさんは、自身の戸惑いを隠して、本心とは裏腹の態度を取る。
「子どもがこういう大事な話をしている時には、親は子どもをしっかり受け止めなければいけないという自負だけはありました。娘がいろいろ打ち明けることに対して、『大変だったね』みたいなことを言うんですが、借り物の言葉を使っているような気がしていました。ただ、胸を切除するという話になった時、夫が『生まれ持った体にメスを入れるのは無茶じゃないか』と止めました。その時、子どもが『今の姿で長生きしたって意味はない。自分の納得するかたちで太く短く生きていく』と言ったんです。それを聞いて、この子は命をかける覚悟までできているんだということが伝わってきたので、やっぱりもう何も言えませんでした」
親として子どもの心をつなぎ止めることを優先したAさんは、「女だろうが男だろうが、あなたがあなたであることに変わりはないんだから、何があってもお母さんはあなたの味方だから」と伝えたという。これだけ聞くと、懐が深く理想的な母親だが、Aさん自身はすぐには気持ちの整理がつかなかったそうだ。