コラム
[連載]悪女の履歴書

「上野小2殺害事件」――37年前から続く「母親の責任」「心の闇」という断罪

2016/05/04 19:00

(事件概要等、前編はこちら)

◎「家庭の母親はよく考えて」「不幸な生い立ち」
 母親はそれまでに経済的に自立し、池之端の家賃10万円ほどの高級マンションで娘との生活をスタートさせている。近くでマッサージの治療院を開業していたが、女手一つの生活に帰宅が深夜になることも多かった。そのためA子は、朝食は母親と共にするものの、夕食代千円を渡されほとんど毎日を1人で外食していたという。そんな負い目もあったのか、母親は教育熱心で、休日にはA子を連れて食事に行き、欲しい物は何でも買い与えていた。

 一方、A子は感情の起伏が激しかったともいう。気分屋で落ち着きもなかったことから、母親はその改善のためにと書道塾に通わせるようになったのだ。

そんな母親との生活の中で、起こしてしまった事件。児童相談所でA子の観察が行われたが、母親の同居は好ましくなく、また児童養護施設では矯正が不能ということでA子は教護院に収容された。そしてA子は、児童相談所でもそして教護院でも一貫して罪の意識を見せることも、葉子ちゃんやその遺族に対する謝罪の弁も述べることもなかったという。

 これは例えば「佐世保小6女児同級生殺害事件」の加害少女や「神戸児童連続殺傷事件」の元少年Aとも共通することだ。さらに、2014年に起こった「佐世保女子高生殺害事件」の加害者である少女とも。

 当時の報道を見ると、A子の犯行は全て家庭環境、生育歴にあると断じられている。

「本当の原因は、彼女の不幸な生い立ちからくる“心の”問題」「彼女は、毎日寂しい生活を強いられていた。この事件をきっかけに、家庭の母親は、よく考えてほしい」(「週刊読売」昭和54年10月28日号)
「生い立ちの影響が大きいと思いますよ。大事なものを失う、喪失体験というんですが、この子の場合、父親がいなくて母親とも一時別れて暮らしていた。ものごごろついた時には、一番大事な人がいなかった。大きいんです、これ」(「週刊朝日」昭和54年10月26日号)

「異常な行動の裏に十歳では背負いきれなかった“乾いた生活”があった」(「週刊サンケイ」昭和54年11月1日号)

「親の愛情と保護が必要です」「共働き家庭、離婚による母子家庭の激増しているいま、考えさせられる事件」(「新鮮」昭和54年12月号)

 時代が違っても、シングルマザーの問題や“母親”の責任という暴力的で旧態依然とした批判は相変わらずだが、しかし本当にそうだろうか。

 確かにA子の生い立ちは複雑だが、最初に預けられた老夫婦からも、5歳になって預けられた養父母家族からも、そして母親からも多少の歪みはあったにせよ愛情を受けていたことが窺える。虐待を受けたり育児放棄された形跡もない。それを単なる“生育歴”“心の闇”だけで片づけてしまっていいものなのか。

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