カルチャー
[女性誌速攻レビュー]「VERY」5月号

“頑張るママ”にモヤモヤ!? 「VERY」のスケジュール特集に感じた余裕のなさ

2016/05/02 20:40
「VERY」2016年5月号(光文社)

 つい先日、NHKの『あさイチ』で、「のぞいてみました!“あの人のタイムスケジュール”」という特集が放送されたのはご存じでしょうか? この日のゲストは、坂下千里子さん、そして「VERY」(光文社)モデルの滝沢眞規子さんでした。それぞれが、時間のやりくりについて答えていたのですが、滝沢さんが朝の4時45分に起きて家事を済ませ、お弁当や朝ごはんを作り、掃除もしてから7時半には家を出るというのに対し、坂下さんは調理時間2分の朝食を披露し、「朝からこんなにキビキビ動けない」「一本筋の通ったぐうたら」と等身大の発言をしていました。この放送で、主婦層からの支持を得たのは圧倒的に坂下さんだったようです。この反応を見て、滝沢さんは、「VERY」読者にはウケても、『あさイチ』視聴者にはウケないのだなと実感しました。

<トピック>
◎「WWW4W」素敵の真逆で過ごす術
◎忙しさはいろいろ!新生活ママのための、スケジュールやりくり術
◎Tシャツをキレイめに着るアイテムが欲しい!

■“ぐうたら”もアリに?

 今月号の「VERY」を開いてみたら、クリス‐ウェブ佳子さんのコラム「WWW4W」の冒頭に、「『オンの日とオフの日、それぞれの一日の時間割を教えてください』――そうアンケートで尋ねられるたびに、いつもこう思ってしまう。『本当に知りたい?』って」と、タイムスケジュールについての話題が上がっていました。

 クリスさんは、一応アンケートに答えようと机に向かうものも、こうしたタイムスケジュールに関して、「非の打ちどころのない時間割を目にしたところで、私には胸のざわつきしか残らない」と感じるそう。そして、「もっとこう、怠惰な誰かさんの怠惰な一日の怠惰なスケジュールが見てみたい」というのです。

 ちなみにクリスさん自身のオフの時間は、とにかくゴロゴロして、だらだら本を読んだりテレビを見て、「仕方なく着替え、仕方なく掃除と選択をし、仕方なく夕飯の支度を始める」とのこと。

 このコラムを読んで、もしもこの調子でクリスさんが『あさイチ』に出演していたら、坂下さんのように、お茶の間の主婦層からの好感度が一気に上がっていたのでは? と思わずにはいられませんでした。

 ちょっと前までの「VERY」では、こうした怠惰な1日を肯定するような内容は見当たらなかったですし、なんだかんだで「お母さんは自己犠牲で頑張っている、それでもおしゃれがしたい!」という“頑張るママの私”を肯定する切り口の企画が特集されていました。きっとその方が読者のウケがよかったのでしょうが、ここに来て「VERY」が世のママたちに「そこまで頑張らないでいいんだよ、怠惰でいいんだよ」というメッセージを発信するつもりになっているのではと感じました。もちろんこれはクリスさん個人の価値観ではありますが、そうした波が来ているのかもしれません。

■“頑張っている他人”へのモヤモヤ

 しかし、なぜ忙しい時間をやりくりする人を見るのはしんどいのでしょうか。その答えは、この「VERY」の「忙しさはいろいろ!新生活ママのための、スケジュールやりくり術」にあるように思えました。

 このページには、3人のママが登場して、1日の過ごし方や、スケジュールのやりくりを語っています。まず、兄妹2人を別々の学校に入れ、5つの習い事に通わせている専業主婦(もうこの説明だけでおなかいっぱいですが……)の方は、「複数の習い事を掛け持ちするのは大変ですが、子供たちが自分の好きなものを見つけるきっかけになったり、インター以外にも世界を広げてあげたい」と語ります。

 また、2年前に職場復帰してフルタイムで働くママは、旦那が保育園へお迎えにいく「パパデー」を作ったとのこと。しかし実際にやってみると、「パパデー」の日程変更をしなければいけない場合が出てきたことから、夫婦の予定を「Googleカレンダー」で調整するようにしたそうです。そのおかげで、夫婦が険悪なムードにならずに済んだというエピソードを紹介していました。

 最後に登場する、食育インストラクターとして3児のママは、忙しい中でも、「食事は家族でしっかり」「仕事は9時半から17時半まで」と優先順位を決めているそう。「私にとって一番の仕事は“お母さん”」と明確になったことで、仕事にも育児にも、前より良い距離感を持てるようになったといいます。

 彼女たちの「忙しいけれど充実している」また「そんな自分を肯定している」様子を見ると、筆者は距離を感じてしまいます。別に他人をうらやましがったり、責めたりすることはないとは思いつつも、ここまで強烈な自己肯定感を目の当たりにすると、「彼女たちが正しくて、自分は間違っている」ような気がして、劣等感を募らせてしまうことは誰にでも多かれ少なかれあるのではないでしょうか。

 人それぞれ、頑張っている、苦労していることはあるはずです。余裕があれば、彼女たちのような“他人”をお手本にすることもできるのでしょう。しかし、クリスさんのコラムからも察するように、余裕を持ちづらい時代になりつつあるのではないでしょうか。“頑張ってる誰か”を見て勇気づけられるよりも、“頑張りすぎていない誰か”を見て共感することの方が、時代には合っているのかもしれません。
(芹沢芳子)

最終更新:2016/05/02 23:29
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