カルチャー
川奈まり子×坂爪真吾対談【後編】

「ファンタジーが壊れて商売しづらい」AV業界クリーン化の弊害と、“グレーであるべき”理由

2016/05/22 19:00

■風俗嬢のための「風テラス」をAV業界でも?

――片やけんか腰、片やスルーというおかしな状態になっていますが、どうすればよいのでしょう?

川奈 「AV出演者の労働環境をよくしよう!」と、業界に寄り添う形で意見をしてくれたら、協力したい業界人はいくらでもいます。しかし「AVはすべからく違法である」という前提なので、議論になりません。それに被害に遭った人がいるなら、まず最初にそのメーカー名と日時を公表して「対策をとってください」と依頼するべきだったんです。

坂爪 風通しをよくしないと、逆に被害を隠してしまうんですけどね。

川奈 職業差別を生む環境が、セックスワークをアンダーグラウンド化させるんです。世界では「セックスワークを非犯罪化しよう」という流れなんですよ。一般の労働者として扱われ衛生面を管理されることで、保険の対象にもなり検査を受けられる。差別をなくして彼らを受け入れることで、性病の多発を防ぎ、正規の労働ですから税も徴収でき税収も上がるんです。台湾やタイはすでに施行済みです。

坂爪 補足すると、日本では売春は違法ですが、AVと風俗は一応非犯罪化されています。少なくともAV出演自体や、風営法の枠内で営業している風俗店で働くこと自体が違法になることはない。被害者救済の必要性を訴える報告書の指摘自体は至極まっとうなので、報告書と業界の実状の違いをどうやって埋めるのか議論をするべきです。

川奈 PAPS(ポルノ被害と性暴力を考える会)がHPで謳っている「AV出演は売買春の一形態である」「AV出演は労働基準法上に違反する有害業務である」という主張を引っ込めてくれたら話し合えるのに。

――しかしAV出演に関して、川奈さんもおっしゃっているように、まったく被害がないわけではないと思います。それをどうしたらよいでしょう?

坂爪 風俗の現場では「風テラス」という活動を実験的に始めました。デリヘルの待機部屋に社会福祉士・弁護士・臨床心理士を派遣して、在籍する女性に対して無料の生活・法律相談を提供しています。AV業界の中でもこういった取り組みをできないでしょうか。

川奈 撮影現場は難しいですね。あれが公然わいせつ罪にならないのは、限られた人数が密室で行っているからなんです。弁護士に出演者になってもらえればいいですが(笑)。

――むしろ、プロダクションと女優の契約が問題になることが多そうですが。

川奈 AV女優が業務委託契約書を交わす日を月に数回決めて、そのときに弁護士に立ち会ってもらい、チェックをするのがいいかもしれません。契約書を読まない若い子も多いですから、そういう子を守るためにも。

坂爪 それはいいですね! ぜひ実践したいです。

【取材・文】和久井香菜子(わくい・かなこ)
少女漫画マイスター、文筆家。『少女マンガで読み解く 乙女心のツボ』(カンゼン)が好評発売中。ネットゲーム『養殖中華屋さん』の企画をはじめ、語学テキストやテニス雑誌、ビジネス本まで幅広いジャンルで書き散らす。

最終更新:2016/05/22 19:00
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