川奈まり子×坂爪真吾対談【後編】

「ファンタジーが壊れて商売しづらい」AV業界クリーン化の弊害と、“グレーであるべき”理由

2016/05/22 19:00
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――それはつまり、「労働である」ことを明言しにくいということでしょうか?

川奈 AVでは、女優がカメラに向かって擬似的にセックスの演技をしているわけですが、それを見ている男性は、自分と行為をしていると仮定しているので、彼女たちが演技をしているとは思いたくないんです。

坂爪 実態を暴露するとファンタジーが壊れて商売しづらいんですよね。風俗でも、テクニックの確立しているソープランドよりも、素人に近いデリヘルの方がいいという男性がたくさんいます。

川奈 メーカーもよくわかっていて、パッケージに「初イキ!」とか「過去最高のエクスタシー」とか書くわけです。AV女優は空気を読める子が多いですから、「とっても感じちゃいました!」とか言うんです。

坂爪 AVも、オープンにすると男は萎えますね(笑)。


川奈 AV監督の夫は「女性が演技をしなくなったら、男性の自殺率が跳ね上がる」と言ってますよ。男性は特に倫理観や正義感が強いですよね。自分がAVを見てオナニーをしている限り、出演者が妻や母、娘、姉妹であってはならないんです。自分の性欲の対象をハッキリ分けて、混同することを極力避けたいんですよ。AV女優を“モンスター化”しないと、自分の生活が侵されてしまう。だからAV女優には、この世のものとは思えないくらい、かわいそうな“モンスター”であってほしい、騙されて女優をやっていてほしいんですよ。そして不幸になって、辞めた後に大手を振って生きるのではなく、悩んでメンヘラになって自殺でもしてほしいんです。実際は、AV女優はメンタルが強くないと続けられないんですけどね。何年もやっている人はサバサバしていて割と男らしい、しっかり者が多いですよ。

坂爪 それは、世に出ているAVやAV女優のイメージとはかけ離れていますね。

川奈 AV黎明期の、ヤクザが作っている時代のままで世間のイメージが止まっているんですよ。

坂爪 今回の報告書は、業界のアキレス腱をついてきた感があります。性産業が法律的に完全な「労働」になれば、働く女性の権利は守られる反面、川奈さんがおっしゃったように、男性から見た魅力は半減し、おそらくは女性、そして業界全体が稼げなくなる。杓子定規に労働法を適用して、業界の中で行われていることを「有害業務」とひとくくりにして規制してしまえば、女性の働く場自体が失われてしまう。これでは本末転倒です。一方で、「労働ではない」という現状を放置している限り、出演強要や搾取などの被害に遭った女性を法的に救済することは難しい。働く人の権利擁護も十分に行えない。

 そのため、働いている人の権利を害さない範囲で、業界内部のルール作りや外部の専門家の意見聴取を徹底しながら、現場を「居心地のいいグレー」に保っておくべきだと考えます。もちろん、どのようにブラックとグレーを線引きするかについては常に議論が必要ですが、今回の報告書を叩き台にして、そうした議論が活性化すればいいと思います。


川奈 報告書は、調査できるのに調査をせずに「こうなんじゃないのかな?」という想像で書いているようですね。

坂爪 某国営放送などの報道番組では、川奈さんが先ほどおっしゃったように、性風俗やAV業界を“モンスター化”して「AVメーカーとプロダクションが巨万の富を得ている搾取構造が云々」という発言をする人に解説を依頼してしまうんですよね。「頼むから、代わりに私を呼んでくれ!」と思います(笑)。業界内の実情をきちんと踏まえた上で、公の場で適切に発言できるプレイヤーをもっと増やさないと、世間のイメージを変えられません。

川奈 実際に関わっていて実状がわかった上で発信する人がいればいいと思うんです。坂爪さんがAVに出演するっていうのは?

坂爪 いや、それは……(笑)。

『セックスと障害者(イースト新書)』