カルチャー
川奈まり子×坂爪真吾対談【後編】

「ファンタジーが壊れて商売しづらい」AV業界クリーン化の弊害と、“グレーであるべき”理由

2016/05/22 19:00
川奈まり子氏(左)と坂爪真吾氏(右)

(前編はこちら)

■AVの被害件数は実は少ない!?

――川奈さんは、報告書に記載されている「AVの被害件数」の割合を実際に計算されたのですよね。

川奈まり子氏(以下、川奈) 現役AV女優は4,000~8,000人いると言われています。年間発売タイトルは約2万本。報告書にある被害件数は4年間で93件ですから、被害遭遇確率はタイトル数あたりでは0.1%、人数あたりでは1~2%、1年あたりでは0.4%となり、東京都の犯罪発生率1.563%を割っているんです。

坂爪真吾氏(以下、坂爪) なるほど。特別にAVがブラックな社会だという数字ではないですね。今回の報告書のことで、AVの倫理審査団体は何か反論しているのでしょうか? 

川奈 AV女優たちが「現実とは違う」と反論しているのはとてもありがたいですが、AV業界全体としては声を上げない、ということになっています。あまりに現状と乖離しているので、バカバカしいから何も言いたくないというのが正直なところのようです。

――先日AVエキストラの現場で会った、制作スタッフさんに報告書の話をしたら「俺たちのはちゃんとしたドラマ仕立てだから関係ない」と言っていました。真面目に制作しているところは、自分のことだと思っていないようです。

坂爪 そうなると、今回の問題については、業界を俯瞰的に見られる人が意見を出すといいのでしょうね。業界の人が変に目立つと、歪曲して受け取られたり、痛くもない腹を探られることになって、不愉快な目に遭う可能性があります。

 ただ、「報告書の内容の一部が事実ではないから」「目立ちたくないから」といって業界の人が誰も反論しない、というのは、ちょっとまずいのではないでしょうか。今回のヒューマンライツナウ(HRN)の報告書には、AV業界の現状に関する事実誤認の部分もあるとのことですが、法律は事実ではなく「世間の空気」によってつくられることが少なくない。事実誤認のある報告書によって世間の空気が動いてしまうと、HRNにとってもAV業界にとっても望ましくない方向、つまり被害者がきちんと救済されず、業界への差別や偏見が増幅されるだけの結果になってしまう可能性もあるはずです。

川奈 業界も今やシステムとしては経理や営業がいて、普通の会社と変わりませんが、「ウソやごまかしはありません」と言いにくい面があるんです。

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