川奈まり子×坂爪真吾が語る「AV出演強要」問題――なぜAV現場と報告書にズレが生じたのか?
このNG事項はAVメーカーとプロダクション双方が用意しているので、AV女優は二重にNG事項を書き込み、出演に際しては、どんな内容か事前に知らされたうえで、AV女優自身が出演合意書にサインをしているんです。AV監督やスタッフは、トラブルが起これば仕事を失うことになりますから、業界の常識として、NG事項を破ることはまずありません。出演内容を正しくAV女優に伝えずに、出演料のほとんどをピンハネするような誠意のないプロダクションは、どんどん女優が辞めています。制作側も、現場で揉めると面倒なので、そういうところには仕事を依頼しなくなっていきます。
――女優さんの自由意志が尊重されていますね。一般企業よりもむしろホワイトなのでは?
坂爪 こうしてAV業界の話をお聞きしていると、風俗もAVもメジャー部分は比較的クリーンだと思いました。性風俗の世界では、90年代末の風営法改正で無店舗型が実質合法化されたことにより、個人や企業の新規参入が容易になり、店舗数も増えたことから中心部分は比較的クリーンになっています。特にデリヘルの世界では、一般企業と変わらない健全営業の法人も増えています。その代わり、風俗で働く女性の人数が増えたことから単価が下がっているので、いい面と悪い面がありますが……。今回の報告書に掲載されているような事例は、業界の中心で起こっていることではなく、業界と社会の狭間で起こっている問題だと思います。狭間で起こっている問題だからこそ、一般のAV女優や業界関係者の人たちからはまず見えないし、社会からも見えづらい。
――ではなぜPAPSは、AV出演強要をあたかも「よくあること」というふうに報告書にまとめたのでしょう?
坂爪 そもそも、報告書の調査元となっているPAPSの母体が、違法な管理売春による搾取の被害に遭った女性たちなどを保護するための「婦人保護施設」の関係者の方々で構成されているからです。拙著『性風俗のいびつな現場』でも書きましたが、一部の激安性風俗店では、管理売春に限りなく近い劣悪な労働環境で、軽度知的障がいや精神障がいのある女性が働いている現実があります。もし私が婦人保護施設に勤務していて、そういった女性たちに日々接している状況だったら、私も「性風俗の世界は、社会的に弱い立場にある女性を性的に搾取している世界だ」という認識を間違いなく持っていたと思います。
ただ、同じ性産業の世界でも、長年性的搾取の被害者の支援を続けてこられた婦人保護施設の関係者の方々と、川奈さんをはじめとして明確な職業意識を持ってこの仕事に従事されている方々とでは、見えている景色がまったく違う。前提としている現状認識に落差がありすぎるため、なかなか議論がうまくいっていないと感じています。
(後編へつづく)