川奈まり子×坂爪真吾対談【前編】

川奈まり子×坂爪真吾が語る「AV出演強要」問題――なぜAV現場と報告書にズレが生じたのか?

2016/05/21 19:00
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「ポルノ・アダルトビデオ産業が生み出す、女性・少女に対する人権侵害 調査報告書」

 あの報告書は、まったく調査が足りないと感じます。「プロダクションの多くは契約書を女性に交付しない」ともありますが、これもとんだ間違いです。AV女優はプロダクションだけではなく制作会社やメーカーと、あらゆる書面を交わしますよ。

――坂爪さんは、報告書に「支持派」とのことですが。

坂爪真吾氏(以下、坂爪) 私は、報告書をきちんと読まずにむやみに反対している人が多いなと感じたのと、おそらく性産業に携わる人たちの中からは、表立って支持を表明する人は出てこないだろうと思ったので、今回の報告書を契機にして性産業で働く人たちの権利擁護に関する議論を深めるために、あえて賛成の立場をとっています。今回の報告書は、一部に川奈さんのおっしゃられたような事実誤認は含まれていると思いますが、少なくとも「性産業の現場を知らない人たちが、感情論で適当なことをでっち上げた」というレベルの内容ではない。「労働だけれども、労働ではない」という性産業のアキレス腱に切り込んでいる内容なので、公の場できちんと議論する必要性があると考えています。PAPSの主張は、「AV出演に労働者性が認められる場合、女性は労働基準法等の適用によって、法的に保護されるべき」であり、それ自体は至極まっとうな主張だと思います。

 AV女優は契約に際して書面を交わすとのことですが、そこはAVと性風俗との違いですね。ただ、報告書にあるように、確かに、風俗嬢やAV女優はどちらも「業務委託契約」であり、雇用関係のある労働者ではなく個人事業主扱いになるため、労働基準法は適用されません。源泉徴収をされないという「メリット」はありますが、仕事の中の怪我や事故、強制労働などの被害に遭っても法律的に守られず、何の保障も受けられない。実態は労働だけれど法律的にはグレーで、それがAV女優や風俗嬢の「労働である」という意識を薄くしているんです。

川奈 いや、AV女優は強烈なセルフイメージを持っていて、労働者だと思っていますよ。1~2回出演しただけの人はわからないけれど、今は出演したら映像だけではなく、パッケージや中身の画像など、全てネットで出回ります。これで「自分はAV女優だ」というセルフイメージを持たずに済むわけがありません。


坂爪 もちろん、売れている単体女優の方は明確なセルフイメージや職業意識を持たれていると思いますが、他の仕事と兼業で出演している企画女優や、単発のバイト的な感覚で出演している女性の場合、「労働」や「職業」というイメージは持ちにくいのではないでしょうか。性風俗の場合でも、主婦や学生、OLとの兼業をする女性が多いため、「私はセックスワーカーだ」という明確なセルフイメージを持っている人は少数だと思います。

川奈 そうなんですね。そもそもAV女優の場合「セックスを売り物にしている」という感覚はないと思います。私はAVをはじめ、ピンク映画、Vシネマと、さまざまな作品に出演しました。それぞれ体の露出度は異なりますが、女優にとってはその違いはまったく問題ではありません。どんな作品でも「出演するため」に現場に行くんです。

■AV撮影に際しては「NG事項」の確認も

――私は、AV撮影現場にエキストラとして参加しているのですが、ほかの映像収録現場と何ら変わらないですし、AV女優さんたちは、それは一生懸命演技をしていますから、彼女たちが「性を売る」のではなく役者、タレントだという意識なのだろうことは、よくわかります。

川奈 路上スカウトが禁止されて以来、AV女優の大半は、自らの意志でプロダクションに応募しています。それに、先ほども言ったように、AV女優はたくさんの契約書を交わしているんです。まず所属するプロダクション事務所と交わす業務委託契約。マネジメントのどの部分を任せるか、というものですね。それからNG事項を確認するシートを記入します。これには撮影においてしたくないこと、されたくないことを書きます。


『溜池家の流儀』