女性の活躍に本当に必要なこととは? 大手企業の取り組みと働き方の変化
■限られた条件と時間でどんな成果を上げられるか
日本郵便・一木美穂氏
日本郵便の一木美穂氏は3年間、育児休業を取得後、職場復帰した。同期からも「辞めたんじゃなかったの?」といわれながら、浦島太郎のような状態で仕事を始めた一木氏は、復帰して半年後に民営化が決まり、新会社の準備室への配置を命じられた。勤務条件的にも過酷なところで仕事をフルスピードでこなすうちに、育児をしながら働くことに慣れたという。
「その経験を振り返ると学びが2つあります。『こんなことまだ自分にできないんじゃないか』と悩むより何かチャンスがあったら、とりあえずやってみる。そして、うまくいかなかった時に考えてみるということです。もう1つは、周囲から間違った配慮を受けるということ。『この人は子育てで忙しいから』とか『仕事したくないんじゃないか』とか、変に気を使ってくれて、『ちょっと大変な仕事はやらなくていいよ』とか 、そういう配慮をなんとなく肌で感じる時期がありました。できないことを無理してやる必要はないと思うんですけれど、自分でどんどん買って出て、ここまではできるというアピールしていくと、少しずつそういうチャンスも広がっていくと思います」
アクセンチュア・植野蘭子氏
アクセンチュアの植野蘭子氏は、コンサルティングの仕事は非常に成果が明確であるため、フレキシブルな働き方ができると語る。
「やっぱり時間が無制限にある人たちと同じところで勝負をしてはいけないということを悟りました。自分はどこで勝負するか自分で決めようと、得意なところを一生懸命考えました。たとえば、私はほかのマネジャーと比べると、チームのマネジメントが得意分野だと思いましたので、そういったところをクリアにして戦っていくことにしました。 時間じゃない貢献の仕方とか戦い方みたいなものを考えてきました。今はまだまだチャレンジしている途中でありますが」
■社会全体の意識の変化が大切
女性が活躍できる社会を作るためには、何がカギとなるか。
山本氏は、働きやすくするためのアイデアが世の中で共有されていないため、「なんとなく閉塞感があるのではないか。ひとりで全部背負っている、みたいな状況がある」と指摘。岡氏も、「男性も女性も制約のある人もない人も、関係なく全員が働いて生産性を上げていくということが必要なこと。社会全体の意識が変わっていくことが、女性が活躍する上ですごく大切」と述べる。
また、一木氏は働く女性の心理について吐露する。
「私は『活躍』という言葉が重たいと感じることがあります。頑張れる時もあるけど頑張れない時もありますよね。女性は真面目な方が多く、もっと頑張らなくちゃいけないんじゃないかと思いがちで、『それはちょっと難しい』とか『私にはとても無理』とか遠慮される声をよく聞きます。弊社の女性社員もそういうことが結構ありますが、50点でも20点でもいいと思うんですね。今できることをやることが自分の自信にもなって、その積み重ねが女性活躍の世界につながっていくのかなと思っています」
植野氏は、社会に変わってほしいと思うことを2つ挙げた。1つ目は働くモチベーションの多様化に目を向けること。かつてモチベーションは報酬だったが、今はもっと働く仲間や自分の成長など、個人ごとに非常に多様化していることから、個人のニーズに対して、いろいろな働き方や環境を社会が提供する必要があると訴える。そして2つ目は、キャリアの積み方を多様にすることだという。
「日本人のキャリアの積み方はハシゴのようになっていて、ずっと登っていくか降りるか、どっちかみたいなところがあります。続けられないとなったら、もう降りるしかなくて、それからまた登るのはすごく大変なんです。欧米の場合は、ハシゴではなくてジャングルジムのような形になっていて、途中で休むこともできるし、横に行くこともできる。いろいろな登り方があり、キャリアの中断があってもまた登れる社会を作っていきたいです」
今回紹介されたのは、大手企業の取り組みの一部に過ぎないが、登壇者の指摘や提案からは、「女性が活躍する社会」は女性だけの問題ではなく、社会全体が“働くこと”に対して抜本的な意識改革をしていく必要性があることが、あらためて浮き彫りになった。今後、女性が活躍する社会、ひいては誰もが働きやすい社会の実現のためには、全ての人がアイデアを出せる環境づくりと、さらにそのアイデアを実現させていくことが求められているのではないだろうか。
(取材・文/末吉陽子)(撮影/林直幸)