サイゾーウーマンカルチャーインタビューどもりの漫画家のコンプレックス克服法 カルチャー 漫画家・安藤たかゆきさんインタビュー 「吃音症はメガネをかけているのと同じ」“どもり”の漫画家が語るコンプレックス克服法 2016/04/03 16:00 吃音症統合失調症 ■100%被害者面はしたくない ――昨年出版されたコミックエッセイ『こころを病んで精神科病院に入院していました。』(KADOKAWA)では、バイト中にどもって同僚とうまくいかずに辞めたことが描かれていましたよね。その同僚も、吃音について知らなかったということでしょうか? 安藤 当時、遊園地の駐車場で誘導のバイトをやっていたのですが、その同僚はおそらく吃音症のことを知らなかったのだと思います。この世にはうまくしゃべれないやつがいる、ということが想像できないらしく、人間はしゃべれて当たり前だろ、訓練すれば治る、という誤解があったと思います。自分を陥れることを楽しんでいたので、いじめと同じですよね。それで精神的に病み、バイトを辞めてしまいました。 次にやったバイトはファミレスのキッチンだったのですが、運が良いことに、そこの店長も吃音気味で、吃音に関して理解があったんですよ。注文がくると、「ピザ1枚、フライドポテト1つ」と、メニューを読み上げないといけないのですが、どもっても特に注意されることはありませんでした。そういうものだという感じで。ほかのバイト仲間も「なんか、どうしようもないやつが入ってきたな」程度で、遊園地のバイトのときの同僚とは違いましたね。 ――職場に理解してくれる人がいるかいないか、で変わるのですね。昨年12月に、吃音症で職を失い、身体障害者手帳を取ろうとするも却下され、市を相手に裁判を起こしている方のニュース記事が毎日新聞に掲載されていましたが、このニュース記事に関して安藤さんはどう思われますか? 安藤 吃音は自分でも気付かないくらいの軽度のものから、コミュニケーションが難しい重度のレベルまであるので、まず、この方はどの程度の吃音なのかが気になりました。自分は吃音というマイナスがあったから、そのマイナスをプラスにする力が必要で、それが逆にやりがいにつながりました。しかし、自分より重い吃音の人に、吃音を克服すべきだとはとても言えません。 ただ、100%被害者面はしたくないんですよね。このニュースを読んで気になったのは、この人は自分の吃音を解決できているのだろうかという点です。自分の中で解決していて、さらに社会に訴えるのならいいのですが、もし、自分の中で解決していないのに社会のせいにしていたら、それはどうだろうと思います。自分はやっぱり、弱者なのだと開き直りたくないですよ。 ■吃音があるから、退屈とは一生無縁 ――安藤さん自身はどうやってコンプレックスを解決されたのですか? 安藤 今も解決の途中ですし、解決するために生きているようなものです。今描いている漫画もそうですけど、自分のつらかったことを客観的に見て、エンターテインメントに仕立て上げ、それを世に出せば喜んでくれる人がいます。それに何より、自分は吃音に負けなかったという自信になると思うんです。 しかし、昔は間違った解決法を選んだこともありました。自分の弱さで自分が傷付けば傷付くほど成長できると思い込んでしまったんです。太宰治先生から始まり、宮沢賢治先生、中原中也先生などに影響され、詩人になりたくて詩を書いていました。そしたら精神を病んでしまいましたね。自分のコンプレックスを正当化していたんでしょうね。また、大学のサークルでは「どもるので“どもども”と呼んでください」と自己紹介したこともありました。そしたら、みんなから「それはちょっとキツいよ」と引かれてしまって(笑)。 ――それは確かにキツいです(笑)。世間の人に、吃音症をどう伝えていきたいですか? 安藤 感情的にならないで伝えていきたいですね。ネット上では「こういうかわいそうな人もいる」という書き込みも見かけますが、そうじゃなくて、それこそ『英国王のスピーチ』のように、エンターテインメントとして訴えかけていくべきじゃないかと思います。感情的に訴えても、一時的に突き動かされるだけで、すぐに忘れ去られてしまうので。仮想敵は作りたくないんです。自分が被害者で、加害者がいる、というのではなくて、何も知らない友達がいる、その友達や仲間にわかってもらえるようエンターテインメントを作っていこう、という姿勢じゃないと、多分永久に誤解されたままじゃないかなと思います。 吃音は1つの弱さですが、弱ければ弱いほど、人生はワクワクすると私は感じます。退屈とは一生無縁だなって。いつだって、一生懸命しゃべろうとしてしまう吃音があるから楽しいなと。 (姫野ケイ) 安藤たかゆき(あんどう・たかゆき) 1984年に生まれて埼玉県で育つ。現在、吃音症と統合失調症で通院しつつ漫画を描いている。趣味はおいしいものを食べること。おいしいものがあれば幸せなので、今は幸せそうである。好きなものは野菜パックに入っているキャベツの芯。あまりグルメではなさそうだ。 Twitter:@kumotoradayo 前のページ12 最終更新:2016/04/03 16:00 Amazon こころを病んで精神科病院に入院していました。 (メディアファクトリーのコミックエッセイ) “どもども”ってすごいインパクト 関連記事 「健常者が考えつかない世界がある」身体障害者の劇団主宰が語る、障害者にしかできない表現加藤茶に「精神科通院」報道! 綾菜の“疑惑”手料理への愚痴も漏らしていた!?「女も女性という“性”を過剰に演出している」 Xジェンダーの漫画家が語る、自分らしく生きる方法白斑問題から学ぶこと――コンプレックスを刺激する広告と距離を置き、冷静な想像力を持とう「私の顔は他人のもの」整形女性の絶望に見いだす、コンプレックスにあがく人への救いとは? 次の記事 不倫相手との交換ブロクによる悲劇 >