メリル・ストリープは“強い女”じゃなかった! 『クレイマー、クレイマー』での精神不安定をバラされる
しかし、『Her Again』では、メリルはもともと『クレイマー、クレイマー』のオーディションに「テッドが一夜を過ごす女性役」として呼ばれていた、と説明されている。ちょい役だったのだが、メリルは主役候補だと勘違い。その上、オーディションではほとんど発言せず、「礼儀正しく、感じは良かった。でも、心ここにあらずで、気まずい雰囲気が流れた」そうで、プロデューサーはあぜんとしたと書かれている。
ダスティンは、そんな彼女を気に入り、ジョアンナ役に即決したとのこと。その理由は、オーディションの内容ではなく、メリルが婚約者で俳優のジョン・カザールを数カ月前にがんで亡くした悲しみから立ち直っていないことがわかったから。「ダスティンは、深い悲しみに直面したばかりで情緒不安定なメリルなら、最高のジョアンナを演じることができると確信した」とつづられている。つまり、メリルは脚本に口を出す“強い女”どころか、オーディションでアピールできないほど不安定な精神状態だったことが暴露されてしまったのだ。
さらには『Her Again』には、ダスティンは、精神的にボロボロだったメリルから最高の演技を引き出すため、容赦ない態度だったと書かれている。アメリカの人気総合娯楽誌「ヴァニティ・フェア」は、『Her Again』の該当部分を紹介。
「2日目は、オープニングの“荷物を持ち、マンションの廊下に出て行くヒステリックなジョアンナを、テッドが追いかける”というシーンを撮影。(略)2人は玄関ドアの前に立ち、スタンバイした。次の瞬間、メリルはもちろんのこと、その場にいた全ての人たちが衝撃を受けることが起きた。玄関を開け、カメラの前に現れる直前、ダスティンがメリルの頬をビンタしたのだ。メリルの頬が赤くなるほど思いっきり」
「エレベーターのドアが閉まる直前に、ジョアンナがテッドに“あなたのことはもう愛していない”と言うシーンがあるが、その撮影をする直前に、ダスティンはメリルに向かって亡くなったばかりの彼女の婚約者の死についてネチネチ言ったのだ」
この日を境に、ダスティンとメリルの間には、ぴりぴりとした緊張が漂うようになり、2人の関係は最悪なものとなったという。同書には、ダスティンが裁判のシーンでもメリルの耳元で亡くした婚約者の名前をつぶやき、涙を流させたとも書かれている。
実はダスティンもメリルのオーディションについて、『Her Again』と同様のことを過去のインタビューで語り、「役を演じるのには、タイミングっていうものがある。恋人を亡くしたばかりのメリルは、この役を演じるにあたり、この上なくパーフェクトなタイミングだったのだ」と説明しているのである。タイミングという点では、ダスティンもテッドを演じるにあたりパーフェクトなタイミングだった。当時、ダスティンは最初の妻アン・バーンとの離婚手続きを進めている最中で、子の親権についてもめていた。生活は荒れ、毎晩のようにパーティーに行き、薬をやっていたことも懺悔している。メリルも情緒不安定だったが、ダスティンもまた情緒不安定だったのだ。
『Her Again』に書かれていることについて、メリルの代理人はコメントを求めた米芸能ゴシップサイト『ゴシップ・コップ』に対して、「ストリープ氏が、この本に関するコメントをすることはありません。非公式本なのですよ。彼女はまったく関わっていませんし、この本を読むこともない」という声明を出した。その声明文からは、メリルがかなり怒っていることがうかがえる。
互いに人気役者でありながら、『クレイマー、クレイマー』以後、共演しなかったダスティンとメリル。同作は、アカデミー賞の作品賞、監督賞、脚色賞、主演男優賞に助演女優賞と総なめにした語り継がれる名作となったが、40年近くたった今も、2人の間には気まずい空気が漂っているようである。