『いつ恋』で魅力的だったAAA・西島隆弘の芝居――朝陽の誠実さと葛藤が伝わる名場面
『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』(以下、『いつ恋』)が完結した。本作は月9(フジテレビ系月曜午後9時枠)で放送されていた恋愛ドラマ。脚本は『東京ラブストーリー』(同)や『最高の離婚』(同局系木曜午後10時)で知られる坂元裕二。東京で暮らす地方出身の若者たちを主人公にした恋愛群像劇としてスタートした本作は、華やかな恋愛ドラマが多い月9では異例とも言える、若者の経済格差や介護業界のブラックな労働環境の描写から、物議を醸す事態となった。
平均視聴率は9.7%(関東地区)と月9史上最低の視聴率となったが、SNSでの注目度は最後まで高かった。近年の坂元ならではのハードな社会派テイストと甘酸っぱい会話劇が同居した、瑞々しい恋愛ドラマだったと言えよう。
残念ながら、主人公の曽田練(高良健吾)と杉原音(有村架純)以外の若者に関しては描写が足りず、群像劇としてはあまりうまくいってなかった。しかしそれを補って余りあるくらいメインの男性キャラクターが魅力的だった。
主人公を演じた高良健吾はもちろん、ミステリアスな行動で周囲を翻弄した坂口健太郎も面白かったが、何より、引きつけられたのは西島隆弘の演技だ。西島が演じたのは井吹朝陽という御曹司。愛人の息子という暗い過去を抱えており、父の征二郎(小日向文世)に、いつか認めてもらいたいと思っていた。
朝陽は認知症ケアの専門職になるために勤務していた、父の経営する老人ホームで働いていたが、そこでヒロインの音と出会い、恋をする。登場した時は、軽薄なお坊ちゃんに見えた朝陽だが、星が好きな正義感の強い青年であることがわかっていく。かつては医療不正を取材するジャーナリストとして活動していたこともあった。「僕だったら君に両想いをあげられるよ」といった、ふわふわした台詞が多く、はじめはヒロインを守る理想の王子様のような存在だった。
しかし、そんな優しい朝陽は変わっていく。
『いつ恋』は1~5話が第一章、6~10話が第二章という二部構成となっていて、2011年の3月11日を境に、舞台は5年後の現代に移る。音と付き合うようになり、今では本社勤務となった朝陽は、昔のまま変わっていないように見えた。しかし、企業を買収して不動産を手に入れたら社員をリストラして会社を潰すという父親のやり方についていけなくなった兄に代わり、父から後継者として認められたことで、昔の純粋さを少しずつ失っていく。