カルチャー
映画『桜の樹の下』監督インタビュー

川崎の団地老人のドキュメンタリー『桜の樹の下』、孤独死を越える「1人で生きる力」

2016/04/02 16:00
田中圭監督

――パワフルなおばあちゃんですね。岩崎さんと仲が良かった関口さんに思いもしない出来事が起こり、驚きました。

田中 私もです。でも撮るしかないと思いました。とてもショックを受けていたけど、そんなときに岩崎さんがアッケラカンとしていて、それでとても救われましたね。

――岩崎さんのパワフルな姿を見ていると、人間の生命力って年齢は関係ないのかもしれないと思います。撮影していて、団地のみなさんが「死」をどう捉えているか、感じることはありましたか?

田中 みなさん死については考えていました。おじいちゃんやおばあちゃんって、死の話題をラフな感じで出してくるんですよ。でも、川名さんが「遺言を書こうと思っているんだよね」と言うのを聞いたときと、実際に遺言を目にしたときでは、自分の気持ちが全然違いました。大庭さんは自分がいなくなったら、検体として自身の解剖をお願いしてあるとおっしゃって、それを聞いたときも、そこまで考えているんだと思いましたね。

――死を意識しながらも、精一杯生きている。このエネルギーはどこから来るのでしょう?

田中 私はおばあちゃんと暮らしているのですが、彼女のエネルギーがどんどん失われていっている気がするんです。デイサービスに通って、身の回りのことをやってもらえるから、自分から発する力が失われているのかなと。認知症もあるので仕方がないのですが、私としては、おもしろいおばあちゃんの魅力が失われていくようで切ないです。でも、この団地の方たちには、力がある。なんでだろうと思ったら、それはひとりで暮らしていく力なんですね。

――あのエネルギーの源は自立していく力なのですね。この映画を作り上げて、田中監督自身の中で、川崎の団地に新たな発見はありましたか?

田中 私はずっと川崎育ちで、自分には「故郷(ふるさと)」がないと思っていたんです。周りの人たちは、地方から出てきて川崎で生活を築いていた方が多く、みんな故郷があるけど、私には「川崎が故郷」という確信がなかったのです。でも、団地で撮影をしていて、それぞれの方たちのお部屋に故郷があることを感じました。各部屋に故郷があり、それが1つの団地に収まっている感じがおもしろい。これは川崎の縮図なんだなと、懐かしさも感じ、撮影しながら「ここが私の故郷だ」と気付きました。すごくほっとしたし、うれしかったです。

――最近は「下流老人」「孤独死」と、ひとりで生きる老人の厳しい現実が報道されることが増えましたが、監督はどうお考えでしょうか。

田中 私は、おじいちゃん、おばあちゃん子で、2人の強いところが大好きです。人間の強さは人それぞれで、ひとりで暮らす老人だからといって、孤独死とか下流老人という言葉でくくってしまうのはどうかと思います。一人ひとりをちゃんと見てあげてほしい。知れば知るほど、みなさん、面白い存在なのですから。
(斎藤香)

映画『桜の樹の下』
神奈川県川崎市の単身高齢者や障がい者などが住む公営団地で暮らす4人の老人たちの生活を追いかけたドキュメンタリー。
(2016年4月2日より、ポレポレ東中野ほか全国順次ロードショー)
公式サイト

最終更新:2016/04/05 13:30
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