カルチャー
残っているのは2世帯

東京オリンピックの犠牲になる都営霞ケ丘アパート 立ち退き期限後も住民が残る理由

2016/03/11 15:00

■環境の変化に耐えられるのか不安

1月30日の立ち退き期限とともに閉鎖となった同アパートの商店街「外苑マーケット」

 移転先は新宿区の百人町、若松町、渋谷区神宮前の都営住宅の3カ所となる。Aさんは数十年も同じ地域で生きてきた高齢者を、別の地域にいきなり移転させることで、環境の変化に耐えられるのかという不安を訴える。

「ずっと同じ環境で過ごしていると、ちょっとした周囲の環境の変化でも心身に影響を与える」

 また、転居先でも、単身の高齢者などは、もともとの部屋よりも狭い部屋があてがわれる場合があり、住環境の問題は大きい。

 また、目にしたネット等での一部の論調も衝撃だったと述べる。「じじい、ばばあは高級地には必要ない」「安い家賃で生活したかったら田舎に行け」といった意見だ。実際、インターネット上には住民に対する支持や同情、行政に対する義憤を示す意見も多い一方で、上記のような揶揄もあふれている。

■アパートの取り壊しによって「うまみ」を得る人々が存在

 しかし、それにしても、すでに同アパートの取り壊しを前提として新国立競技場を建設するというザハ案は白紙撤回され、取り壊しの必要性は以前に比べてもゼロに限りなく近くなっている。それなのに、なぜアパートの取り壊しが進行するのだろうか?

 その理由の一端を説明する、次のような報道もなされている。それは、立ち退き問題に悩む住民がいる一方で、このアパートの取り壊しによって「うまみ」を得る人々が存在する、というものだ。

 「サンデー毎日」2月14日号(毎日新聞)に「都営住宅周辺『再開発』の陰でうごめく都庁、政治家」というタイトルの記事が掲載された。同記事には次のように記されている。

「この再開発によって、アパート住民とは逆に、“恩恵”を受けるマンション所有者がいることが分かった。アパートから道1本挟んだだけの民間マンション『外苑ハウス』。こちらも同事業区域内にあるが、再開発によって高層マンションに建て替えられることが水面下で決まっていた」

 さらに、マンションの登記簿に、「閣僚経験のある元国会議員や、その親族らの名があった。そればかりか、現在の管理組合理事長は前衆院議員の親族が務めていることも判明した」とあり、有力者の思惑でアパートを取り壊して、高層マンションに隣接する都市公園などにする話が存在するというのだ。

 そうだとすれば、マンションの建て替えで利益を得る層のために地域住民が犠牲になるという、あまりにもベタすぎる図式だ。霞ケ丘アパートの問題は、今後どのように展開するのか。つい最近も新国立競技場の代替案に聖火台の置き場がないという不手際が明らかになったが、その裏にこうした問題があることを、見逃してはならないのではないだろうか。
(福田慶太)

最終更新:2016/03/11 15:00
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