カルチャー
精神保健福祉士・斉藤章佳氏インタビュー

これ以上、性犯罪被害者を出さないために 加害者の治療と家族の役割

2016/02/22 15:00

■家族の協力がある人は治療継続率が高い

――治療を継続できる人とドロップアウトする人とでは、何か違いがあるのでしょうか?

斉藤 ひとつの要因として、家族の協力がある人は治療継続率が高いです。

――先ほど、加害者の犯行は家族にとっても青天の霹靂だとうかがいました。

斉藤 ある日突然、加害者家族になるのです。当然、混乱します。妻や母にとっては夫が、息子が性犯罪をしたこと自体が理解できない。先述したように、よき夫、よき父、よき息子である人が多いのでなおさらです。いろいろ調べて依存症という病気の側面があることがわかれば、「病気なのだから、まずは治療が必要」となり、元の夫、息子に戻ってほしいと希望を持ちます。だから、本人より先に家族が相談に来るケースも珍しくはありませんが、それがゆくゆくは再犯防止につながるとなれば、これは大事な契機です。

――親子だとなかなか縁は切れませんが、夫婦の場合も、夫が性犯罪を犯した、即離婚とはならないんですね。

斉藤 治療に来られるご家族の場合は、すぐに離婚を選ばないケースが多いですね。とはいえ、加害者家族もこれまでと同じ生活というわけにはいかず、ニュースで性犯罪事件が報道されれば夫がやったのではないかと不安になり、電話が鳴ればまた警察からの報せではないかと怯え、他人の目が気になって外出もままならず、誰とも話をできず……そんな生活を強いられることが多いです。

 当クリニックには加害者家族支援の一環として「妻の会」「母親の会」「父親の会」を設け、それぞれに家族としてどのように対応していこうかを一緒に考えます。その過程を経てやっと、離婚を決意される方もいます。それはそれで、尊重したいと思います。

――これから性犯罪はますます増える可能性がある、というお話でしたが、少しでも減らす道はないのでしょうか?

斉藤 被害者支援と加害者の再発防止プログラム、どちらも課題が多いのが現状であり、双方の専門家が情報共有をしていく必要を痛切に感じます。また、被害に遭った女性が被害届を出しやすい仕組みを作らなければいけません。それがないと逮捕につながらず、彼らは犯行を重ねます。セカンドレイプや煩雑な手続きなどに負担を感じることなく訴え出ることができる、ワンストップ支援センターが開設されましたが、もっともっと被害者へのサポートが求められています。
(三浦ゆえ)

斉藤章佳(さいとう・あきよし)
御徒町榎本クリニック精神保健福祉部次長(精神保健福祉士/社会福祉士)。1979年生まれ。大学卒業後、榎本クリニックにて精神保健福祉士・社会福祉士としてアルコール依存症を中心にギャンブル・薬物・摂食障害・性犯罪・虐待・DVなどさまざまなアディクション問題に携わる。専門分野は『性犯罪者における地域トリートメント(社会内処遇)』で、榎本クリニック内で行われている性犯罪及び性依存症グループ(通称SAG:Sexual Addiction Group-meeting)のプログラムディレクター。最近では、日本で初めて常習性の高い性犯罪者に対して、拘留中の面会、裁判員裁判への出廷や刑務所出所前に面会に行き出所後継続した社会内処遇につなげる『司法サポートプログラム』が司法関係者やマスコミから注目されている。
・御徒町榎本クリニック

最終更新:2016/02/22 15:00
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