精神保健福祉士・斉藤章佳氏インタビュー

これ以上、性犯罪被害者を出さないために 加害者の治療と家族の役割

2016/02/22 15:00

■非接触型の性犯罪が増える

――女性としては、「誰もが加害者になりうる」というのはとても怖いことで、「特殊な人がなる」と思いたいのですが、そうではないのですね。今後、犯罪が増えるのは何か理由があるのでしょうか?

斉藤 増えているといっても性犯罪は親告罪であり、被害を訴え出る人が全体の約15~20%といわれていますから、実際の数を把握するのは難しいです。非接触型の性犯罪者は、女性との交際経験がないケースが多いのですが、現在のようにインターネットが発達し、それ自体が生活の中心にあり、リアルなコミュニケーションによって「人とつながっている」実感が持てない若者が増えると、必然的に行動化されない性の表現方法も多彩になり、結果、非接触型の性犯罪も増える可能性は十分にあります。その証拠に、最近受診する比較的若い世代の対象者の中に、ネットの動画を模倣するケースが増えてきました。よくも悪くもネット社会の弊害がそこに表れているのではないでしょうか。

――そうやって家族や友人、会社の同僚など身近な人が知らず知らずのうちに加害者になっていることもありうる、と。

斉藤 事件化する前に周囲が気づけば、そこで治療につなげられるきっかけになりますが、そうしたケースは非常にまれです。逮捕されて初めて発覚するので、家族にとってはまさに青天の霹靂。しかし逮捕は、加害者にとって行動変容の大きなきっかけです。彼らは「逮捕されなかったら、ずっと続けていた」といいますから、ここからやっと再発防止という形で再犯を未然に防ぐ努力ができるわけです。


■「深く反省させれば二度とやらない」は幻想

――それまでに被害に遭った人のことを考えると、とうてい許せませんが、ここで治療をしないとまた被害者を生んでしまうのですね。

斉藤 私たちは、加害者をケアするのでも、支援するのでもありません。あくまでも次の加害を防ぐための再犯防止プログラムの一環として彼らに接します。具体的には、その人が再犯を犯すリスクの程度を見極め、本人の中の「変化させやすい」部分を特定し、そこにアプローチします。

 たとえば、過去に虐待を受けた事実は変えられないけれど、問題行動の引き金がお酒なら、それを断つ努力はできます。痴漢であれば満員電車を避ける生活に切り替えることもできますし、自分が何かしそうになったとき誰かに相談する仕組みを作っておけばリスクは減らせます。薬物療法、マスターベーションやインターネットの管理なども平行して行います。3年間に及ぶこのプログラムをきちんと遂行した人と、途中でドロップアウトした人とでは、再犯率が大きく違います。やはり継続することと、忘れないことが重要なんです。

――自分が犯したことへの反省を促すわけではないのですね。


斉藤 もちろん反省することは重要です。しかし、深く反省させれば二度とやらない……これは幻想です。彼らが申し訳ないと思う順位の第1位は家族で、被害者は2位か3位。でも、内心では「そんなにヒドいことはしていない」と思っています。認知の歪みが根底にあるため、その変化には時間がかかります。逆に、責任を追求すればするほど再犯率が上がるというエビデンスもあります。

 被害者のみならず多くの人にとって許せないことだと思いますが、ここでは再犯しないことを最優先に考えているので、まずは二度と罪を犯さないためのスキルを身につけるためのプログラムをしっかりと受けてもらいます。彼らは、過去に取り返しのつかないことをしました。私たちもそういう人間として対応します。ただ彼らが変化するときの痛みは尊重し、変化するために必要なものを提供していきます。

――海外では、刑期を終えて出所した加害者の個人データを公開したり、GPSをとりつけて居場所を把握することで、再犯を防止する例も見られますね。

斉藤 ところが、監視だけで再犯率が減ったという報告はないんです。子どもをその人物に近づけないなど、周囲の人たちにとっては役立つでしょうが、一方で、過剰な監視は逆に心理的負荷がかかりすぎ、彼らの再発リスクを高める結果になるという報告もあります。治療・教育をセットにして行う必要があるということに尽きます。

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