フジのドラマはなぜ低視聴率? 『5→9』『オトナ女子』『アンダーウェア』にみる病巣
――2015年、高視聴率を記録した『下町ロケット』(TBS系)や『あさが来た』(NHK)など話題作が登場した一方、1年を通じて低調ぶりが騒がれたのがフジテレビのドラマだ。いま、フジドラマが抱える問題は何なのか? ドラマ評論家の成馬零一が振り返る。
フジテレビの凋落をめぐる報道が増えている。視聴率が低下し、決算で創業以来初の赤字となり、民放最下位に転落。テレビ東京に視聴率で抜かれることも多く、瀕死の状態にあるのは間違いないだろう。そんなフジテレビのダメさを、もっとも象徴していたのが『アンダーウェア』の最終話をめぐる騒動だ。
12月4日。フジテレビの金曜プレミア枠で、4週連続で放送されていた『アンダーウェア』の最終回が、実写映画『ゲゲゲの鬼太郎 千年呪い歌』の放送へと差し替えられた。亡くなった水木しげるさんの特集を組むこと自体に異論はないが、問題だったのは、最終話の放送が、次週の金曜プレミアではなく、その翌日の午後3時台に差し替えられたことだ。しかもこれは関東地区のみの対応であり、それ以外の地方局では最終話の放送日程が各局バラバラだったため、視聴者からの激しい怒りの声がネットに書き込まれた。
『アンダーウェア』の平均視聴率は第1週が6.5%(ビデオリサーチ調べ、関東地区/以下同)、第2週は3.7%、第3週が4.3%と、視聴率としては低いものだ。だから最終話の放送を差し替えても問題はない、とフジテレビは考えたのだろう。
しかし、そもそも本作は有料動画サイト「Netflix」で配信されていた全13話を再編集したものである。月9ドラマ『リッチマン、プアウーマン』(フジテレビ系)を手掛けた脚本家・安達奈緒子による本作は、下着業界を舞台にした職業ドラマの傑作だ。しかし、その面白さはあくまで「Netflix」という有料動画サイトでじっくりと見ることにより、初めてちゃんと伝わるものである。
放送媒体によって作品の作り方が変わるのは当たり前で、どんなに質が高い作品でも、民放地上波のように不特定多数の人々が気軽に見る場所に何の考えもなく持ってきたら、うまくいくはずがない。ましてや、特別編集版では、細かいドラマのニュアンスがそぎ落とされてしまい、少し大味になっている。それでも本作をきっかけに、「Netflix」版の宣伝となるのなら仕方ない、と思っていたら、最終話の時間変更である。
優れた作品を、編成と宣伝が台無しにする。『アンダーウェア』の騒動には、今のフジテレビのダメなところが全て集約されていた。
◎ドラマ番宣でバラエティに出るのは賢明か?
何かと批判の多いフジテレビのドラマだが、作品自体のクオリティは決して低くない。今年だけでも、『アンダーウェア』はもちろんのこと、坂元裕二・脚本の『問題のあるレストラン』や古沢良太・脚本の『デート~恋とはどんなものかしら?』など、優れた作品が多い。しかし、それらの作品の視聴率は決して高くない。そのため、一部のドラマファンは絶賛しているが、「商品としては失敗」とフジテレビは判断しているのだろう。
今のフジテレビは企画と制作と編成と宣伝がまったく噛み合っていない。中でも一番ダメなのが宣伝だ。間に合わせとして、出演俳優をバラエティ番組に出演させるような宣伝ばかりで、ドラマ自体のテーマや、面白さのツボをちゃんと伝えようという意思がまったく感じられない。
輪をかけてひどいのが、亀山千広代表取締役社長による定例会見だ。最近では『オトナ女子』の低視聴率を記者に指摘された際、「篠原涼子が美人すぎてイタさが足りない」と言ったことが、悪い意味で話題となった。低視聴率の理由を説明し、それが報道されることで、放送中のドラマに「失敗作」という烙印が押されてしまう。その悪循環が発生しているのだ。
まず亀山社長がやるべきことは、「フジテレビのドラマは志の高い作品です。視聴率が低くても、作品の評価とは無関係です」と言って、作品と制作スタッフを守ることではないのか。また、視聴率の立て直しを図って作られた作品のほとんどが、トレンディドラマ路線のものばかりで、「フジテレビのドラマは恋愛モノ」という過去の成功体験にとらわれすぎているのも問題だ。