重要なのは「血のつながり」じゃない。愛とエゴとコミュニケーションで成り立つ「家族」の醍醐味
■『とことん板谷バカ三代 オフクロが遺した日記篇』(ゲッツ板谷、KADOKAWA)
家族の破天荒な“バカエピソード”で人気の「板谷バカ三代」シリーズの最新作。本作は、パワーがあり余る家族を支えていた板谷氏の母・よし子さんが、亡くなる直前まで書き続けた約4年分の日記を抜粋し、著者のコメントを加えたものだ。生命力が暴走するさまが笑える既作とは趣が異なり、死や病の存在を身近に感じさせる、番外編のような位置づけとなっている。
よし子さんが日記を始めたきっかけは、自身のがんの再発。しかし、進行する肺がんと闘いながらも、定期的に泥酔して帰ってくる夫・ケンちゃんを支え、長男が倒れて病院に日参し、次男夫婦の就職活動に気を配り、初期のがんが見つかった家族のために奔走し、子どもたちの夫婦仲に心を痛め、毎晩のようにやって来る弟や友人からの長電話に付き合い――と、闘病というより、周りの人の世話を焼くことに忙しい日々だ。
時に“バカだけど憎めない”という枠を超えるほど突拍子もない家族の言動に、江戸っ子口調でキレたり呆れたりしつつも、日記には一貫して家族への情愛深い視線が流れている。自分の死に直面して心身がつらい時でさえも、どうしようもない家族の弱さや愚かな面と向き合わざるを得ない、そんなよし子さんの状況を幸せと見るか面倒と見るかは人それぞれだろうが、家族を支えたいという強い思いが彼女を奮い立たせ、人生をより濃密にしているのは間違いない。
そして、彼女の日記の間に差し挟まれる板谷氏のコメントも、ぶっきらぼうだが、端々に母親への深い愛情がこもっている。「家族愛」という定型句ではまとめ切れない、愛も業も絡み合い、他人には簡単に解きほぐせない混沌。並々ならぬパワーあふれる板谷家だからこそ、そんな家族という関係の醍醐味をそのまま味わわせてくれる。
(保田夏子)