なぜ、今“Over60”の女性たちに惹かれるのか――美魔女ブームの疲弊と「私は私」の風潮
写真集の中には、足に包帯を巻いていたり、杖をついていたりする女性も登場する。60を越えればいくつもの葛藤を乗り越え、絶望に直面したこともあるだろう。精神的な苦境だけでなく、肉体的な老いを感じているだろうし、病気を抱えている人もいるだろう。それでも、どんな状況の自分も受け入れ、美しくすっくと立つ姿に、元気と勇気をもらい、自分もこんなに凛とした女性になりたいと思わずにはいられない。
■「私は私でしかいられない」という当たり前のことを教えてくれた
人は人生を歩み進めるうちに、「役割」を与えられる。女性であるならば、「妻であること」「母であること」「仕事での役職」など。役割に則して、他人からの「こうあるべき」というイメージを押し付けられることも少なくない。そこから自由に飛び立ち、ありのままの自分であることを楽しむOver60の女性からは「私は私でしかいられない」という当たり前の、しかしとても大切なことを学んだ。
特に『OVER60 Street Snap』に収められた日本人女性が、奥ゆかしさの中に個性を発揮していることに感銘を受けた。フランスやイタリアのように女性が年を重ねて成熟していくことに対して敬意を表するという文化もなく、ニューヨークのように個性を求められる文化でもない日本において、Over60の女性たちは和を大事にしながらもしなやかに自分を表現していて、調和がとれた美しさを持っていた。黒、グレー、ベージュなどの定番の色を基調としながらも、個性あふれる柄や差し色をうまく組み合わせ、周囲から浮かないように、うまく個性の演出をしている。自分だけがファッションを楽しむのではなく、周りの人や行く場所、景観、季節などにも思いを馳せて選んでいるであろう。その配慮に、静かなインテリジェンスを感じる。
とにかく若く見られることを良しとした“美魔女ブーム”に疲れた世代には新たな道しるべとなり、20~30代には感性を刺激する存在となる。そんな新たな美しさの概念をまとったOver60女性の存在は、今後も多くの人を魅了していくだろう。
最後に、私が勇気をもらったNYのマダムの一言を皆さんに。
「人の真似をしすぎると、誰でもなくなってしまうわ。
まわりと比べないこと。あなたはあなたでしかないんだから!」
恩田雅世(おんだ・まさよ)
コスメティックプランナー。数社の化粧品メーカーで化粧品の企画・開発に携わり独立。現在、フリーランスとして「ベルサイユのばらコスメ」開発プロジェクトのほか、様々な化粧品の企画プロデュースに携わっている。コスメと女性心理に関する記事の執筆も行っている。
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