コラム
仁科友里の「女のためのテレビ深読み週報」

紀里谷和明は、なぜ日本映画界から嫌われているのか? 「合理的」発言に見るメンタリティ

2015/11/26 21:00

 今回の映画で、紀里谷は役者を1人クビにし、「サッカーで点を入れられなかったら、ベンチに下がるのが当然。批判されるが、現場を回すためには、しょうがない」と、それが“合理的判断”に基づいたものと述べた。そのほかにも、自分の映画の試写を見た若者の失礼な態度など、興味の対象は常に“批判されるかわいそうなオレ”で、自意識過剰的な視野の狭さが目立っていた。

 今回、一番自意識が露呈されたのは、同番組に自身を含め3人の監督が集ったことに対する「監督同士が集まると、ケンカするんじゃねえかという懸念がある」という発言である。映画監督同士がプライベートで会うことは滅多にないそうだが、その理由について紀里谷は「ケンカが起きるから」と分析。これは自意識過剰の極みである。なぜなら、ケンカとは基本的に“同格”の人間がするものだがらである(立場が上の人間との口論は、説教や叱責であり、ケンカとは呼ばない)。

 園子温53歳、岩井俊二52歳、紀里谷和明47歳と、年齢はほぼ一緒だが、監督としてのキャリアは格段に違う。園は「ぴあフィルムフェスティバル」に入選後、監督歴は30年余。「ベルリン国際映画祭」でカリガリ賞、国際批評家連盟賞を受賞するなど、輝かしい経歴を誇る。岩井も同様で、「日本映画監督協会新人賞」を受賞後、『Love Letter』のヒットにより、アジア全域にファンを持つ。全編英語の『ヴァンパイア』では、脚本、監督、音楽、撮影、編集、プロデュースを担当するなど、幅広く活躍している。映画を2~3本撮っただけの“新人”紀里谷を相手にするわけがないのである。

 紀里谷は、日本人と日本映画界が“合理的”でないから、自分は嫌われたと思っているようだが、私はそうは思わない。北野武もかつては「お笑い芸人に何ができる」と映画界の閉鎖性に悩まされた1人だったそうだが、バラエティ番組で、映画で賞をもらってよかったことについて尋ねられ、「スタッフが言うことを聞いてくれるようになった」と答えていた。つまり“権威”があれば反感を持っていたスタッフも言うことを聞かざるを得ないということであり、“権威”のないまま挑んだデビュー作の『CASSHERN』で苦労したのは業界のしきたりから言えば当然。「スタッフが言うことを聞かない」のは、スタッフ側から見ると「言うことを聞くに値する人物ではない」、つまり“実力不足”と思われていたのだ。

 自分を“合理的”と表現する人は、往々にして、「自分以外はバカに思えて仕方がない」という特徴を持つのではないだろうか。新作『ラスト・ナイツ』は、忠臣蔵をモチーフにしているそうだが、周囲に忠誠を求めるのなら、まずは自分が忠誠を誓われる人間かどうか、考えた方がよさそうに思えてならない。

仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ、フリーライター。2006年、自身のOL体験を元にしたエッセイ『もさ子の女たるもの』(宙出版)でデビュー。現在は、芸能人にまつわるコラムを週刊誌などで執筆中。気になるタレントは小島慶子。最新刊は『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)。
ブログ「もさ子の女たるもの

最終更新:2015/11/26 21:00
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